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Album:IT'S A WONDERFUL WORLD(Mr.Children)全曲レビュー

IT’S A WONDERFUL WORLD」はMr.Childrenにとって記念すべき10枚目のアルバムであり、彼らのデビュー日である5月10日に発売された。そして、彼らにとってはベスト盤後のアルバムとなった。
桜井氏はこのアルバムでは「バンドとしてのMr.Children」ではなく、「作詞家、作曲家、いわゆる“作家としての能力”を出し切ることを優先した」とSound & Recordingのインタビューで語っている。だからか少し距離を置いて詞や曲の傾向がいままでのMr.Childrenの楽曲と比べ、幅があり、また秀作が多いアルバムのようにも思える。アルバムタイトルや、ジャケットは「素晴らしきこの世界」を象徴したものとなっているが、僕がこのアルバムを色で例えるなら“ピンク”や“むらさき”であり、奇妙な雰囲気が漂うアルバムでもあるかな、と。

[IT’S A WONDERFUL WORLD:MR.CHILDREN]

It’s a wonderful world

It’s a wonderful world

M-1.overture
蘇生の前奏、と考えてよいと思う。もともと「蘇生」の一部であることも桜井氏が語っている。蘇生が完成した後に、イントロとして作り始めた。ライブでも、蘇生を演奏する際は前奏で必ず流れる曲で、蘇生とのセットで考えると、士気を上げるための曲でもあるのかな、という具合。

M-2.蘇生
ライブでは定番の楽曲。「でも何度でも 何度でも 僕は生まれ変わって行く」というフレーズが聴く側の心を勇気付ける。打ち込みのデジっぽさと、それを突き抜けるエレキギターストロークが相まって、当時からすれば、これもまたひとつの「新生Mr.Children」の形だったのかな、と。僕から言わせてもらうと、この楽曲の聴きどころは何と言ってもCメロじゃないかな、と思う。この辺りからHOMEのような日常を前向きに捉えていく歌が増えた。それでも、この蘇生のCメロは今ある現実をいかに“夢のように塗り替えるか?”と強いメッセージを放ってくれる素晴らしいフレーズだと思う。

叶いもしない夢を見るのはもう/止めにする事にしたんだから/今度はこのさえない現実を/夢みたいに塗り替えれば良いさ/そう思ってんだ/変えていくんだ/きっと出来るんだ(蘇生/Mr.Children)

[ベスト盤発売時のレビュー]
ライブお馴染みの楽曲。桜井氏お気に入りなのだろうか。アルバム“It’s a wonderful world”に収録されており、同アルバムでは“overture”というインスト楽曲とつながっている。本ベストアルバムでは、その“overture”からつながるシンセの音はカットされている。歌詞の内容は、とても深く描かれていて、年を重ねるごとに見方が変わったりするんじゃないだろうか。特に9.11でのアメリカの価値観崩壊後との関わりも大きいのではないだろうか。個人的にはCメロの“叶いもしない夢を見るのはもう/やめにすることにしたんだから/今度はこの冴えない現実を/夢みたいに塗り替えればいいさ”というフレーズが印象的。これは決して諦めの意ではないと思っている。例えば崩壊してしまったものは、崩壊前の時間に戻ることはできない、そういう“叶いもしない夢”に対して僕らが出来るのは、その崩壊前よりも素晴らしい物、“夢みたいに塗り替える事”ではないかということ。

※ベスト盤発売時に書いたレビューを忘れてまた新たに書いてしまったので、ふたつ載せます。

M-3.Dear wonderful world

アルバムのラストを飾る「It’s a wonderful world」のサビを削いだもの。もともとはもう少しテンポが速く、ソウルっぽかったらしい。「蘇生」は確かに「はじまり」の予感をさせるが、この「Dear wonderful world」は「アルバムのはじまり」を予感させる楽曲。小さなことを歌っているが、どこかロマンチックなテイストも鏤められていて、この時期のMr.Childrenの楽曲に対する考え方とか、趣向とかが、短いながらも現れている楽曲だと思う。

M-4.one two three
ブラスが活きている楽曲。最近の曲で例えるなら「終末のコンフィデンスソング」だろうか。過去の曲で言うなら「ありふれたLove Story〜男女問題はいつも面倒だ〜」とかかな。詞がとても楽しいし、情景が浮かんでくるし、こういう詞をミスチルはポップに仕上げてしまうところがまたいい。メロディーもキャッチーではないんだけれど、その分、アレンジを聞きやすく仕上げていて“作家としての挑戦”が垣間見れる楽曲かな、と。

M-5.渇いたkiss
こういう「密かな別れ」を連想させる楽曲が、このアルバムは多い。「渇いたkiss」も曲には終始気怠い雰囲気が漂っていて、けれど、どこかセンチメンタルな空気も混じっている。ベースとドラムがとても、繊細で、それぞれベース、ドラムのみに集中しても素晴らしい。そして、なぜか、そこからも哀愁がにじみ出ている。コード進行も、ミスチルの中では繊細な部類に入るのではないかと思う。別れた相手に対し「未練」を抱きながらも「幸せ」は祈ったりしない、分かる人にはとにかくわかってグッとくる男心を歌った楽曲。世界観に関して言えば、女性より、男性人気が高いんじゃないかな、きっと。

M-6.youthful days
軽快なギターリフから始まり、ドラム、ベースも負けずと疾走感を併せて走り出す。ライブアレンジのベースから始まるものも好き。間奏のラジオボイスと歌詞がセクシーさを増している。この頃のMr.Childrenはセクシーだった、なんて言われることもある。サウンド的には、とにかく爽快で羽が生えたような気持ちになれる楽曲。サビに入った時のアコギのシャキシャキ感がたまらない。
ちなみに、この楽曲、もともとのサビのメロディーがスピッツに似ていて変更になったらしい。ネットでは「8823では?」と噂されているが、その真意は定かではない。このクリアーで爽快な世界観を持っているのは、いまのところMr.Childrenの中でもトップの楽曲じゃないだろうか。

M-7.ファスナー
スガシカオ氏を意識して作った楽曲。個人的には、この楽曲も“作家としての挑戦”がよく現れている楽曲じゃないかなーと思う。インタビューでスガシカオ氏が「へんな所で俺のベースぱくるなよー(笑)」と言っていたけれど、似ているかな?聴きなおしてみよう。アコースティックの雰囲気を匂わせつつ、聞いている人間の心を抉る様なリリックが痛快。人は見て見ぬふりをしながら、自分の気持ちも、相手の気持ちも、見て見ぬふりをすることが、ファスナーを閉めることは、時に敬意と愛の結果であったりもする。けれど、開くことだって、決して悪いことじゃないとも思う。その例えがものすごく具体的に表れれているのが冒頭のスカートのファスナーを下げるシーンだと思う。多分、この二人は本来、スカートを下げてはいけない関係なんだろう。

きっと/ウルトラマンのそれのように/君の背中にはファスナーがついていて(ファスナー/Mr.Children)

M-8.Bird Cage
コード進行がとてもシンプルながらも、このアルバムの中では最も重いムードが漂う楽曲じゃないだろうか。神様によって番で結ばれた二人が、その鎖を切り、鳥籠の中から放たれていく、という楽曲。サビのメロディーのシャウトも聞きどころ。とても高音だからか、世界観のせいか、ライブではたった一度しか歌われていない。それでも失恋した時なんかに聞くとグッとその世界観が胸の奥まで迫ってきて、共感できる内容になっている。これもまた出てくる主人公と似た様な性格や考え方を持っている人はグッとくるし、共感できる内容じゃないかな、と思う。逆に「こんな考え方には到底なれない」と思う人は嫌悪感を抱いてしまうんじゃないかと。それぐらい仕上がった世界観のある楽曲。

M-9.LOVE はじめました
ライブでも数度披露され、ファンからの人気も厚い楽曲。イントロの不穏な音像が、聴く人間の高揚感と不安感を掻き立てる。そして、そのムードを一蹴するように掻き鳴らされるアコースティックギターと譜面に敷き詰められた細かいメロディー。
愛は憎しみも産むし、悲しみも産む。綺麗な側面だけではない、と「I ♥ U」で桜井氏が伝えたかったように、この楽曲も「愛とはなにか?」ということ、そしてもっと踏み込んだ「憎しみとはなにか」を歌っていると思う。ただ、がむしゃらに掻き鳴らすギターと衝動性と、メロディー、バンド感はそう多くはないものの、聴く人の心になにかを残す秀逸な楽曲ではないだろうか。
もっと言えば、「愛のない時代に産まれた人間」を描写しているようにすら思える。

殺人現場にやじうま達が暇つぶしで群がる/中高生たちが携帯片手にカメラに向かってピースサインを送る/犯人はともかく/まずはお前らが死刑になりゃいいんだ/でも/このあとニュースで中田のインタビューがあるから/それ見てから考えるとしようか(LOVE はじめました/Mr.Children)

M-10.UFO
大好きな楽曲。これも共感できる人と、できない人とで二分すると思う。桜井氏自身は「この曲の主人公は嫌い」と言っているけれど、どうにも僕にはこの楽曲の主人公が桜井氏自身に思えてならない(笑)「なぜ二人/今になって惹きあってしまうんだろう」という口説き文句のような言い訳のような、けれど、このフレーズこそが「秘密を共有する二人」を象徴していて、さらにそこからUFOという「僕ら二人だけを連れ去ってくれないか」、もっと言えばそういう“ファンタジーの世界への逃避”を試みている主人公が僕は好き。
このどうしようもない空気と、救いようのない未来と、それでも相手に対する腐りきってもなお、純粋な愛情と、素晴らしい楽曲だと思う。
あとはメロディーが最高。Aメロが特に、一気に引き込まれる。「youthful days」とは違った一瞬で世界観に引き込む、最高のストリングスのイントロと、ドラミングだと思っている。ミスチル史上ベスト10に入るイントロと、Aメロ。

M-11.Drawing
これもラスサビ前の間奏が印象的な楽曲。2番目まではリズムマシンを用いて演奏されている。生のドラムのドラムロールによってパーッっと景色が広がっていく感じ、そして僕には小さい花火が真っ直ぐに夜空に打ち上げられて居kうようにも感じる。Mr.Childrenからしたら、ちょっとした実験曲でもあったんじゃないかな?と捉えたくなるぐらい素晴らしく前衛的な完成度。

この素晴らしい/煩わしい気持ちを/真空パックしておけないもんかなぁ(Drawing/Mr.Children)

M-12.君が好き
とてもシンプルなタイトル。そして歌詞の内容も“君が好き/僕が生きる上でこれ以上の意味はなくたっていい”と歌っていることからわかるように、とてもシンプルである。ピアノ、ギター、ベース、ドラム、どの楽器もさりげなく、しかしとても美味しいフレーズが鏤められていて、ひとつひとつの音に注目して聴いてもとても魅力たっぷりな楽曲。この曲は、PVがとても凝って作られているのでそこから話題になることもある。

M-13.いつでも微笑みを
[ベスト盤発売時のレビュー+α]

名曲。個人的にMr.Childrenベスト5あげろと言われればこの楽曲を上げる。
イントロに“子供の泣き声をイメージした加工音”が入っているのが素晴らしい。この楽曲は蓄音機から流れ出しているイメージらしい。僕らが生きていくうえで、大事にしなくてはならないこと、覚えておかなくてはならないこと、覚悟しなくてはならないこと、それらを集約し、歌にした“いつでも微笑みを”
悲しみも、喜びも、嬉しさも、慈しみも、愛しさも、すべてがこのほんの数分間に集約されていると思う。イントロの子供の泣き声から誕生をイメージし、しかしAメロでは死を連想させる。でも、どんな場面でも「この歌“いつでも微笑みを”」があったらどうだろうか。死と直面した時でも、僕はそう思えるだろうか。メッセージはきっとないんだろうけれど、メッセージがないからこそ、「産まれると死んでいく」の核心をついた楽曲であると思う。

M-14.優しい歌
[ベスト盤発売時のレビュー+α]

泥臭いアコーディオンの前奏からはじまる一曲。前回のPOPSAURUSツアーを花と共に象徴する一曲と言ってもいいだろう。今回のPOPSAURUS2012ツアーのオープニングを飾るであろう候補にも挙げられていた。Aメロにはいるとクランチサウンドのギターが片側から流れてきて、やがてベース、そしてドラムが盛り上げる。“優しい歌”とタイトルがついているものの、バンドサウンド前回の、そして“新生ミスチル”、生まれ変わったMr.Childrenを予感される、そして象徴することとなった代表シングルであると思う。
人を愛する、ということの最果ての答え。なにかに躓いたときは、人を思うことでまた頑張れる、そういう人もいるのではないだろうか。楽曲のメッセージ通り“忘れていた喜び”を思い出させてくれる楽曲。

誰かの為に/小さな火をくべるよな/愛する喜びに/満ちあふれた歌(優しい歌/Mr.Children)

M-15.It’s a wonderful world
「Dear wonderful world」の世界観をもっと広くした楽曲。
桜井氏の解説によれば、楽曲の隅々にまで綿密に練られた楽曲のよう。アルバム制作の最後の最後に完成した楽曲。「優しい歌」の後に続く楽曲に相応しく、「忘れないで/君のことを僕は必要としていて」と“誰かと誰かは必要としあっている、そして繋がっている”という生きていく上での大事な事実を歌いながらも「あなどらないで/僕らにはまだ/やれることがある」と蘇生で歌っているような「諦めずに現実を塗り替えていく」ことの大切さを歌っている。なんとなく思うのは、この「IT’S A WONDERFUL WORLD」というアルバムそのものは「世界の終わり」を連想させて、けれど、その「救いようのない世界(もしくは現実)」に“小さな火をくべていく”ための決意の歌(集まり)、アルバムであるように思う。

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