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Album:シフクノオト(Mr.Children)全曲レビュー

アルバム名はカタカナで「シフクノオト」
「私服」と「至福」のダブルミーニングであるらしい。仮タイトルは「コミックス」だったが不評だったため、取り下げに。しかし、ジャケットとその仮タイトルから伝わるように、バラエティに富んだ一枚である。だからか、Mr.ChildrenファンがMr.Childrenを聴いたことのない人に勧めるアルバム(ベストのぞく)ものとしていつも候補上位にはシフクノオトがある(と思う)。
アートディレクション佐藤可士和氏。気の抜けた感じ、ポップさ、主張しすぎない彩りの良さ、個人的には「HOME」なんかより“ホームメイド”であると思う。

[シフクノオト:MR.CHILDREN]

シフクノオト

シフクノオト

シフクノオトの初回盤にはアルバム制作過程のドキュメンタリーが入っている。タガタメ、花言葉、pink~奇妙な夢~、などのフレーズをひとつひとつ、様々な個所に拘って試行錯誤して作られていることが伺える。
このアルバムのアレンジは“Mr.Children小林武史”によって産み落とされた少なくとも2004年ごろまでの最高傑作のアレンジばかりだったのではないかと思う。
様々な個所に鏤められた、きめ細やかな楽器の音と並び。特にシンセとブラスはいままで以上に上品で聴き心地が良い。

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M-1.言わせてみてぇもんだ
あまりにもキャッチーとは言えない奇妙なブラスとドラムによるイントロ。リバーブがかかったり、フェイザーがかかたり終始サイケな雰囲気を醸し出す。けど、美味しい個所もいくつかあって特に間奏のギターソロ、Cメロのメロディー、歌詞など“Mr.Childrenらしさ”は踏んだんに盛り込まれている。僕はこの曲をはじめて聞いたときはMr.Childrenのファンじゃなかったのだが、その時の感想は「遊園地が閉演したにも関わらず、真夜中突然照明の灯りがついて、奇妙なネオンの中パレードのはじまる感じ(誰も乗っていないメリーゴーランドが回る図)」のイメージが浮かんだ。

自分にしか出来ない事/身に付けようとしているけど/代わり映えしねぇなぁ/なんかつまんねぇなぁ(言わせてみてぇもんだ/Mr.Children)

M-2.PADDLE
Mr.Childrenファンが推す人気楽曲。爽快感と、アレンジの軽さと、疾走感、そしてなにより歌詞もポップで前向きでいい意味で力が抜けている感じがいいのだろう。いつ聞いても鬱陶しくないし、気軽に聞ける。風を裂いていくようなアコースティックギターストロークと、虎視眈々となにかを狙うようなAメロ、Bメロのメロディー、そしてサビで「ゆ“け”/荒“れ”/狂う海原の上(う“え”)」と上がったり下がったりして波乗りするような楽しいメロディー。うまいアレンジだなあ、と関心させられたりする楽曲でもあるかも。

M-3.掌

この楽曲、HANABIと同じぐらい「どうしてこんな曲が書けちゃうの?!」ってぐらいにフラストレーションと葛藤の混じった楽曲だ。歌っていることはとてもシンプルで、しかし人間として生きる上でのテーマ。本能と願望がうまく重ならないジレンマ。抱いたはずが突き飛ばして、包むはずが切り刻んで。僕らは一方を求めるとき、もう一方を捨てなくちゃいけない、しかし、そうできない。認められない。コントロールできない。しかし、受け止めることができなくても、認めることだけでもできたら。歪んだギターのリフとループするドラム、Cメロからラスサビへの転調へ向けた展開、タガタメほど壮大なアレンジではないものの、もがき苦しみ、僕ら個人が戦うべき僕らの中の苦悩。

キスしながら唾を吐いて/舐めるつもりが噛みついて/着せたつもりが引き裂いて/また愛求める(掌/Mr.Children)

M-4.くるみ
PVが話題になった楽曲。未来に語りかける楽曲、と言われているけれど、未来に語りかけていても語りかけていなくても、楽曲の中身に影響はないだろうな、と思う。歌われていることは、僕らが今を生きる上での切なさとか寂しさとか、それでも前に進まなきゃな、っていう言うなれば終わりなき旅のバラードバージョンと捉えてもいいかも。“誰と話しても/誰かと過ごしても/寂しさを募るけど(終わりなき旅)”と“ねぇくるみ/誰かの優しさも/皮肉に聞こえてしまうんだ/そんな時はどうしたらいい?(くるみ)”など、似ている点は多い。“さよなら”という言葉が出てこない点など、とても好き。サビのメロディーが不器用ながらも階段を上がっていくイメージがあって、僕は好き。

M-5.花言葉
 掌→くるみ→花言葉のコンボはグッとくる。サビからはじまるMr.Childrenには珍しい楽曲。構成や転調の仕方も面白い。個人的な聴きどころはエレキギターのオクターブ奏法とベース。グロッケンが入っていたり、“アコースティックMr.Children”の素晴らしさ。この歌い方はシフクノオト期独特の歌い方かなあ。Signとかもそうだろう。

M-6.Pink~奇妙な夢
 どうしてこんな曲作ったんだろう。という楽曲。最近で言えば「ロザリータ」とかもこの類かな。桜井氏がつくる妄想の楽曲はこういう歪で偏屈なものが多い気がする。妄想ってたいてい願望とか、欲求が表れるからストレートな表現になる、と個人的には思うのだけれど、桜井氏のものは捻くれている。とはいえ、サビのメロディーはかっこよくて好き。ライブとかでアレンジされたら、もっとかっこよく進化するんだろうなあ、という未完成の雰囲気を漂わせる一曲。

思いを飲み込んだ昨日より/ぶちまけた今日の方がより/多少は黒ずんだりしてるけど愛しさは増えるよ(Pink~奇妙な夢/Mr.Children)

M-7.血の管
 これもどうしてこんな曲作ったんだろう。という楽曲。[HOME]の「彩り」の次に「彩り」というフレーズが歌詞に出てくる楽曲。ピアノでしっとり仕上げられている。随所にファルセットが仕込まれていて、正直そこがまた奇妙な感じを演出している・・・。Wikipediaの裏話を読むと面白い。オーボエもそれに一役買っているだろう。

M-8.空風の帰り道
 HEROのカップリング。もう、本当はこういうこと考えて楽曲聴いちゃいけないのだろうけれど、桜井氏の脳梗塞のこととか、病床のこととか、楽曲の背景を考えるとしっとりしてしまう。エフェクトのかかったオルガン、間奏のスライドギター、間奏じゃなくてもアコギ、もう言葉では言い表せない“空気”“散歩道”“景色”を感じさせてなにも感じさせないまま過ぎていく時間のような楽曲。

M-9.Any
名曲中の名曲。個人的にMr.Childrenベスト5あげろと言われればこの楽曲は必ず入る。イントロのピアノも素晴らしい。サビのメロディーは子供がピアノをトン、と適当に叩いたところから生まれたとか。ミスチルの楽曲では突然音が高くなる(未来とか)のは不思議じゃないのでそんな風なエピソードがあったとは。誰が聴いても、“こんなにも的確に自分のことを歌っている!”と思わず感動してしまうんじゃないだろうか。世の中をどんなに揶揄しても、どんなに自分がふてくされても、現実から背を向けても、悦に浸って口先だけの弁をかましても、僕自身が塗り替えなきゃ未来は変わらない。そして、なにより今いる場所を信じなくちゃ、12色の心では描けない。きっと答えはひとつじゃない。

※この楽曲のブラスアレンジがMr.Children至上最も素晴らしい、とおもう。

今/僕のいる場所が/探してたのと違っても/間違いじゃない/きっと答えは一つじゃない(Any/Mr.Children)

M-10.天頂バス
 転調と天頂のダブルミーニング、らしい。あ、あと店長もかかっているらしい。もはや遊び。楽曲もそこそこ長くて、当時のMr.Childrenからしたら実験的楽曲だったようにも感じられる。特にシフクノオトツアーのライブで披露されたアレンジなどを考えるとそうなのだろう。発展させる幅を持たせているし、CD音源でのアレンジもガチガチに固められすぎていない。歌い方もファルセットから地声に変わったり、終盤でリズム隊が本気を出したり、聴きごたえのある楽曲。

M-11.タガタメ
この楽曲はとても壮大な事を歌っているようで、実は視点はずっとミクロなままだ。“ディカプリオの出世作なら/さっき僕が録画しておいたから”とまるでリビングでの会話のような視点から始まり、サビが“被害者”や“加害者”と言った過激なキーワードが出てくるも、また2番のサビでは“明日もし晴れたら/広い公園へ行こう”など、これといって世界観がでかくなったりはしない。しかし、その歌詞とは反対にアレンジはブラスが入ってきたり、感情的なギターソロが弾かれたり、とそのアレンジがメッセージ性を何十倍にも増幅させている。“誰がために鐘は鳴る”がモチーフになっているのではないか、とか釈迦の話(http://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n43028)がモチーフになっているとか、とにかく背景にはいろいろな感情が詰まっているだろうな、と思われる楽曲。Mr.Childrenというバンドだからこそ鳴らせる音であり、歌詞であり、世界観である。こういう曲は産みだすのにエネルギーがとてもいるのだろうな、と思うけれど、また聴いてみたいとも思う。

M-12.HERO
桜井氏お気に入りの楽曲。2番の比喩が素晴らしい。人生をフルコースに例えたものなのだけれど、このサビに人生の儚さとか、苦さとか、甘さとか、そういうものがすべて集約されていて、じゃあ人が死を迎えるときに望んでいるものは?これはピアノやストリングスと見事に調和したバンドサウンドの楽曲、と言える。ラスサビになったときに、ファルセットで歌っていたサビが高らかに地声で歌われる所などはとても胸に響く。“いまさらもう秘密はない”という部分に、誠意や覚悟を感じて、受け取る側からしたら胸を打ってたまらないんだろうなあ、と。愛情と覚悟が目一杯に包まれた名曲、か。

この楽曲でこのアルバムが綴じられるのは、とても意味があることだと思うし、そのことがよりこのアルバムを名作たらしめる理由だと思う。

人生をフルコースで/深く味わうための/幾つものスパイスが/誰にも用意されていて/時には苦かったり/渋く思うこともあるだろう/そして最後のデザートを/笑って食べる君の側に/僕は居たい(HERO/Mr.Children)

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