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通過点としての新天地開拓 / Album:DISCOVERY(Mr.Children)全曲レビュー

 もうすぐ最新アルバム「REFLECTION」が発売されるというのに、「DISCOVERY」について書いてしまいました。しかもこれ、前半は2年ぐらい前に書きずっと温めてたものですね(言い方をすると)。

 NEW ALBUMMr.Children | New Album REFLECTION | TOY'S FACTORYはとにかく楽しみでありますが、まずは過去のミスチルも、ということで、掲載します。
 後述してますが、「DISCOVERY」収録「終わりなき旅」と「REFLECTION」収録「未完」は通ずるものがありますしね!

[MR.CHILDREN:DISCOVERY]

DISCOVERY

DISCOVERY

  • アーティスト:Mr.Children
  • 発売日: 1999/02/03
  • メディア: CD

 よくMr.Childrenの中でもとっつきにくいアルバムとして「Q」があげられると思うのだけれど、個人的には、この「DISCOVERY」が深海以降でもっともとっつきにくいアルバムではないかと思っている。
 「Q」はメロディーや展開に遊びが入っているにしても、世界観の面で言えば誰にもに共通なものを歌っている。一方で「DISCOVERY」は重々しい雰囲気は勿論のこと、個人からすればもっと大きくて強大な、到底かなわないようなモンスターを敵に仕立てて闘っている。
 最終的に「終わりなき旅」や「Image」といった結論に帰結するも、果てしない旅路を想像させるような、僕らはこれから途方もない人生を歩んでいくのだ、だけど決して息切れなんするなよ、とストイックなメッセージを送り続けているようにも感じる。

M-1:DISCOVERY

 左右のチャンネルから淡々と溢れ出る歪んだエレキギターの音が、このアルバムを象徴している。渇ききったドラムのスネアが鳴り始め、それを支えるように野太いベースが音を立てる。“DISCOVERY”は、その淡々とした演奏とボーカル桜井氏の感情を抑えた様な低いメロディーではじまる。メロディーの中に大きな変化はないが、演奏は徐々に熱を持ち始める。
 “DISCOVERY”という表題通り、いままでになかった新しい何かを発掘しようともがいては苦しむ人間の行為を歌う。演奏がピークに達した時、メロディーはいままでの淡々とした雰囲気を一転させ、“DISCOVERY”とシャウトする。抑えていた感情を爆発させるように、新しいなにかを見つける為の闘志を燃やすように、荒野の中で叫ぶ。このアルバムを象徴するような展開となっている。
 魂を切り開くように、シャウトする“DISCOVERY”のフレーズは、これまでのMR.CHILDRENのレッテルを大胆にも引き剥がし、「深海」や「BOLERO」とは違う方向性を示している。

険しくとも歩みゆく/ただ君の手を取って/真っ直ぐにDISCOVERY(DISCOVERY/Mr.Children)

M-2:光の射す方へ

 印象的なギターのフレーズ。バックグラウンドで響くループドラム。唐突で落ち着きがないメロディー。“光の射す方へ”は、Mr.Childrenというバンドの次元から飛び出しつつも個性を保っている素晴らしい楽曲だと思う。アウトロはクリーントーンでのエレキのアルペジオ。浮遊感のある空気が僕らを包み、一方からではなく多方面から光が射しているような錯覚に陥る。“出来レースで〜”“すっぽんぽん”“合鍵”など、風刺の効いたフレーズも多々あり、ライブで聴くとそのバンド感に心地よく刺激的な一曲。何気にエレキギターがいい味を出していると思う。
 そして個人的にめちゃくちゃ好きな曲。POPSAUROUS2012で演奏されたの、嬉しかったです(なぜ、東京でやらなかった!)。とにかく、演奏、アレンジ、歌い方、どれもこれもが最高。
 「ニシエヒガシエ」で感じさせた様なサンプリングを多用した“デジロック要素”を踏襲したアレンジになっている。Aメロ〜Bメロまでを気怠そうに、味気なくストロークされるアコースティックギターの音と、ボーカル、間髪入れずにサビへ突入し、張り上げる高音。思いついたように、メロディーは高い場所へと飛んでいく。とにかく、この楽曲は、どんどんどんどんと道を切り開いていく。
 どこへ向かっていくかなんておかまいなし。好きなように楽曲が演奏され、おそらくこの楽曲の主人公は、“光”なんてまるっきり見えてもないのだけれど、とにかく“光の射す方へ”向かっていこうとしているのだろうな、と。そういう絶望だけじゃない、絶望だけを見つめることで感じさせる方向性、みたいなものを感じる。

M-3:Prism

 「終わりなき旅」のカップリング曲。“なにもかもが憂鬱”というフレーズが印象的。正直な所、歌詞もコード進行も特別“Mr.Childrenらしさ”はないと個人的には思っていて、「深海」の頃にあったような憂鬱さとはまた違った内省的な憂鬱さなんだろうな、と思っている。
 誰かやなにかを意識しているのではなく、もう本当にパーソナルな葛藤を吐き出した一曲のようにも感じて、聴いているうちにいつの間にか胸の底に沈んで動かないダウナーなのにキャッチーなメロディーで人の心をとらえる。
 The pillowsとの2006年の対バンツアーで再び脚光を浴びた楽曲。シンプルなコード進行と歌詞で構成されるも、どこか重苦しい雰囲気を漂わせる。ロックともポップとも形容しがたい。仮タイトルは、「さわお」。

自分に嘘をつくのが/だんだん上手くなってゆく/流れ行く時代に/しがみつく僕を笑って(Prism/Mr.Children)

M-4:アンダーシャツ

 アルバム「DISCOVERY」は社会風刺の効いた楽曲が多く、この「アンダーシャツ」も漏れなくそのひとつだ。混沌とする社会の中で、平然と快楽に身を浸し時代に流されるままに欲望を垂れ流す群衆。僕ら自身もその一員と諦めるしかないのか、それでも身の潔白を、僕らは汚れていないと、真っ白なアンダーシャツを主張する。ドラムやベース、ギターまでもがリズミカルに、そしてバンド感を交えて強く表現されている。ワウを効かせたギターソロも聴きどころ。当時のMr.Childrenにしか書けなかった、世の中に対するメッセージであると思う。
 同じような言い回しばっかりになってしまうけれど、とにかく「DISCOVERY」はギターが主張する楽曲が多い。この「アンダーシャツ」に関して言えば、バンドとしてのグルーブを感じさせるような曲になっている。跳ねるドラムと、ゴリゴリのベース。バンド感を重視したアレンジのみならず、サビではとにかくシャウトする始末。風刺が効いたような歌詞でもあるけれど、もうとにかく叫びたかったんじゃないのかな、とさえ思う。

M-5:ニシエヒガシエ

 Mr.Childrenを象徴する楽曲はいくつもあるが、“ミスチル型デジロック”のベースを築いたのは間違いなくこの曲だろう。そして、どの部分を切り取っても非常に練られたフレーズであることがわかる程に綿密で繊細なアレンジ。
 Mr.Childrenが活動休止中に桜井氏が自宅スタジオでProtoolsを試しながら完成させた楽曲。この時のエピソードで非常に印象的なのが「このデジタルなアレンジが、いつ廃れてもおかしくないと思っていたから、まだ新鮮味があるうちに世にだしておきたかった」といったようなことを当時のインタビューで語っていて“その時代にあった音楽をつくること”を非常に考えていたんだなあ、と。
 アコースティックギターが非常に活きながらも、歌詞の面でも、サウンドの面でもリスナーを痺れさせる今更語る必要のない名曲のひとつ。

M-6:simple

 変な話ではあるけれど、“ミスチルがどんな気持ちで、曲を作ったか?”なんてのはリスナーには想像でしかないし、その想像もほとんど的外れなものしかできない。特に「深海」〜「Q」の時期、下手したら「IT’S A WONDERFUL WORLD」の時期あたりまではなんかミスチルってすごく無骨で、リスナーと音楽家としての一線がしっかりとひかれている印象がある。すごく極端に言うと「社会から求められているものを生産しています」みたいなイメージ。
 その中で「simple」という楽曲も決してカジュアルではなく、この「DISCOVERY」というアルバムにキチンと馴染んでいて、裏を返せばどこか乾いているというか、淡々としている感想を抱く。けれど、ここ最近のMr.Childrenの活動で「simple」は非常に温かいムードの中で歌われていて、もしかするとこの楽曲は、製作された当時からハートフルなものだったのかな?とすら思ったりもする。
 アコースティックギターの軽やかなリフだけでなく、エレキギターの柔らかな音色、サビで拡がる鮮やかなコーラスが楽曲の景色をうまく仕立て上げていて、バッキングのピアノ、そしてこの曲のベースはウッドベースだったかな(?)、個人的には大人なバラードだと思っております。

M-7:I’ll be

 名曲、ですね。言わずと知れたミスチルの名曲です。シングルバージョンも存在し、ライブで御披露目されたことが皆無の為、ファンクラブツアーでも演奏されることを期待されていたのですが俟たしてもファンの夢は叶わず無念。
 桜井氏の友人である名波選手のことを思って制作された楽曲。9分にも及ぶ壮大な曲だが、その長さを感じさせず、段々と気持ちが高揚し、士気を高めるな気分にさせられる。
 歌詞のひとつひとつ、どこを切り取っても、そりゃあもう最高で、こんな安っぽい書き方をしたいわけじゃないんだけれど、名フレーズの連続だ。Mr.Childrenの楽曲の中でも屈指の歌詞の完成度な気がする。ミスチルは様々な楽曲で、「想像次第でなんとかなるぜ」とメッセージを放っているのだけれど、この楽曲は特にそのメッセージが痛烈に伝わってくる。特に2番のピーナッツの件なんか恐ろしく最高ですね。
 楽曲のアレンジも、それぞれの楽器が邪魔することなく、立つところは立ち、引くところは引く、世界観を生み出す事に専念したかのような素晴らしさ。下地を支える力強いJENのドラムとナカケーのドラムも最高なんだけれど、やはりエレキが素晴らしい。随所に鏤められた秀逸に歪んだフレーズと響き渡るチョーキングが格好良すぎる。

 なんだろうね、最高ですよ。

不安や迷いと無二の親友になれればいい(I'll be/Mr.Children)

M-8:#2601

 桜井氏とJENによる共作ハードロック。個人的に思うのは、JENが作曲に加わるとすごく癖のあるギターのフレーズが入るよなあ、と。このイントロのリフも、そしてメロディーも、非常に独特。特にサビのメロディーに至っては、高音でずっと叫び続けるものだから、ライブで演奏されたことがあるということの方が驚きで。是非、一度は聴いてみたいなあ、と思う次第です。
 「DISCOVERY」の流れにも非常に溶け込んでいて、ミスチルの楽曲でこういったものは多くないから、完成度も高いし、度々聴きたくなる楽曲。むしろ今のミスチルがより複雑にアレンジを考えたら間奏の部分なんかがよりダークで湿っぽくなってしまいそうで、この時期に作られたからこそ、いいんだなあ、とか思ったりします。

M-9:ラララ

 アコギのアルペジオが軽やかに響き渡り、Aメロ〜サビの繰り返しで緩やかに展開していく、最近で言う「横断歩道を渡る人たち」みたいな楽曲。桜井節炸裂の、どこかハッとさせられるような遊び心の利いている歌詞が聴き所でしょうか。なんて言いつつも、この楽曲は、エレキもベースも、それこそアコギのアルペジオもひとつひとつのフレーズがすごく心地よくて、演奏したら楽しいだろうなあ、と思います。特にベースは聴いていて楽しいです。淡々と歌っているけれど、「人が生きることの切なさ」みたいなものがとても詰まっていて、「1999年、夏、沖縄」のような桜井氏ならではの人生観が見えて、実はこういうこと歌えちゃうのがミスチルがすごいところなんだよなあ、って思ったりもします。

いろんな情報が行き交う/要りもしないのに/手を出してみたり(ラララ/Mr.Children)

M-10:終わりなき旅

 ミスチルと聞いたらこの楽曲を思い浮かべる人、たくさんいるでしょう。そして、いろんな感想を持つ人がいると思います。僕もめちゃくちゃ好きな曲ですし、語る必要もないかな、とか思います。
 ファンとして、この楽曲が好きなのは楽曲が常に進化し続けていること、です。以前ゆずが「サザンだったらライブでは“勝手にシンドバッド”が必ず聴きたいと思うもの、だからゆずは“夏色”を必ず歌います」と言っていて、素敵だなあと感じまして。ミスチルの「終わりなき旅」も何回演奏されても個人的には申し分ないですし、その度にアレンジを変えてきているのがめちゃくちゃ好きです。
 個人的に好きなテイクは「釤HOME釤 TOUR 2007 -in the field-」の時のモノですね。「終わりなき旅」でまさかのES-335を桜井氏が持っていまして、この音が僕はめちゃくちゃ好きなんですね。最高ですね。
ミスチル、ファン、そして社会と共に成長、進化し続ける、そんなポテンシャルを持った楽曲が「終わりなき旅」だと思っています。
 そうえいば6月4日発売の「REFLECTION」に収録されている「未完」には「終わりなき旅」を匂わせる様なフレーズがありましたね。“未来へ続く扉/相変わらず僕はノックし続ける”姿勢は、完成することのない終わりなき旅なんですね。

誰と話しても/誰かと過ごしても/寂しさは募るけど/どこかに自分を必要としてる人がいる(終わりなき旅/Mr.Children)

M-11:Image

 最初この曲を聴いた時は「Imagine」意識しているのか?とか思いましたけど、どうなんでしょう。個人的に思うにどうも、ミスチルらしくないかな?といまでも思う。Cメロからの展開が激しく、当時のバンドとしてのアレンジの幅を表現されていて、この「DISCOVERY」というアルバムを通して表現されてきたことが、以降のMr.Childrenに活きてきているんじゃないかと思う。
 特に激しくなるだけじゃなく、コード進行の展開も複雑になったりしていて、バラードのようで、とっつきにくいという「DISCOVERY」らしさが出ている。ある意味では「安らげる場所(Q)」をもう少し広い視点で見た様な楽曲で、「想像すること」へのとても大事なメッセージを綴っている楽曲。
 「終わりなき旅」では、風呂敷を広げすぎて片付いていない感じがするからこそ、これまでの流れを包括して、アルバムを締めるに相応しく、ラストに置かれたのかな、と考えています。