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2000年代の集大成、バンドとしての成熟期を感じ取れるベスト盤 / Best Album:Mr.Children 2005-2010 〈macro〉

 ベスト盤Mr.Children 2005-2010 〈macro〉発売に合わせていままでの記事から収録曲のまとめ。

Mr.Children 2005-2010<macro>【通常盤】

Mr.Children 2005-2010<macro>【通常盤】

  • アーティスト:Mr.Children
  • 発売日: 2012/05/10
  • メディア: CD

M-1.worlds end

 衝動的なエレキギターストロークから始まりドラム、ベース、ピアノ、ストリングスが参入し、一気に加速していく。そこに歪を生じさせるようにボーカルの唸るような声が入る。
 ライブでは定番の曲となりつつあり、スクリーンにメッセージ性の高いインスタレーションが映し出されたり、Mr.Childrenメンバーのお気に入りの曲でもあるように伺える。5/10発売のベスト盤[Mr.Children 2005-2010 〈macro〉]の一曲目にも収録されており、Music Stationでもベスト盤のプロモーションとして披露された。
 歌詞の内容も素晴らしい。まさに傑作。PVも印象的。

飲み込んで吐き出すだけの/単純作業繰り返す/自動販売機みたいに/この街にボーっと突っ立って/そこにあることで誰かが/特別喜ぶでもない/でも僕が放つ明かりで/君の足元を照らしてみせるよ(worlds end/Mr.Children)

なんにも縛られちゃいない/だけど僕ら繋がっている(worlds end/Mr.Children)

M-2.僕らの音

 噂、というか多分ガセなんだろうけどアートディレクターとして関わっている丹下紘希の短編映画の主題歌用に作られ、その映画は反戦等の社会問題を訴える内容になっていて、それに沿うように作られた、と聞いてそれにとても納得してしまい、いまでもそういう視点でこの楽曲を聴いてしまうことがある。
 というのも、9.11がモチーフに作られているのではないか?というガセネタなのだ。

 確かにインタビュー等で「9月は夏休みとかで雰囲気がガラッと変わってしまっている女の子がいるから、その変わってしまった雰囲気に動揺している男子の気持ち」と桜井氏が語っているけれどそれにしても「9月」ってピンポイントすぎない?と思いながら読んでいた。

君は九月の朝に吹き荒れた通り雨/叩きつけられて/虹を見たんだ/そこで世界は変わった(僕らの音/Mr.Children)

 9.11に重ねると(もちろんきっとガセなんだけど)、すごくぴったり合ってしまう。そして桜井氏自身が9.11以後「アメリカ的価値観が崩壊し、これからは自分たちで価値観を築いていかなくちゃいけない」といったようなニュアンスを度々インタビューで語っていたところから考えるとこの「僕らの音を奏でる」という行為は「(9.11などで世界が震撼し、リズムやハーモニーが多少ずれてしまったとしても)なにものでもない、自分たちにしかない音を奏でていけばいいのだ」といったように解釈できる。
 しつこいようだが、ガセネタである。

M-3.箒星

 疾走感、明るさ、突き抜け感、どれをとってもポジティブで前向きな楽曲である。前作I♥Uにあった迷いとか、葛藤とか、苦悩みたいなものが一切ない。突き抜けた明るさとポジティブ。それがとにかく良い意味で強い。なんのインタビューだったか忘れてしまったけれど、とにかく明るく突き抜けたものを作ろうと心掛けたものらしい。2パターンのデモが完成していて、その2パターンからもとにかく明るい方をシングルとして切り落とした。バンドサウンド、というよりは、バンドとしての確立されたアンサンブル、この辺りからMr.Childrenは音に対するこだわりがより一層強くなって、輝けるアンサンブルが増えたと思う。個人的にははじめてこの曲を聞いた時、「あ、新しいMr.Childrenのステージに進んだんだな」と感じた。

最近ストレッチを/怠ってるからかなあ/うまく開けないんだ/心がぎこちなくて(箒星/Mr.Children)

でもね僕らは未来の担い手/人の形した光(箒星/Mr.Children)

 桜井節の比喩表現がふんだんに組み込まれたアップテンポキラーチューン。

M-4:しるし

 そういえば、このアルバムだったか、という。桜井氏曰く「別れの歌」とも「出会いの歌」ともとれる一曲。この曲が発売された当初僕は「どうしてミスチルはこんなありきたりな歌詞に、ありきたりなメロディー、売れ線を狙った展開の曲をシングルにしてしまったんだ」とがっかりした。
 当時桜井氏も「ありきたりなメロディーや言葉が出てくるのは、かぶったとか、パクリ、ではなくて単純に誰もが思っているから。誰もの心にあることだからそうなるのだと思う」と語っていた。

 でも、サビの壮大な展開の仕方や歌詞のシンプルさ、情熱的な歌い方は間違っていなかった。しっかりと若者に認知され、今ではMr.Childrenの代表曲のひとつだろう。

 ちなみに一説によると桜井氏のペットが亡くなって書かれた曲で、決して手を抜いて作られたわけではない。まさにホームメイドな、手作りで丹念に作られた楽曲であると感じた。

M-5.フェイク

 the pillowsとの対バンツアーで披露された楽曲。新たなミスチルデジロックの誕生。今もライブの定番となっているナンバー。イントロのギターは桜井氏がミキサーのスイッチを適当にオンオフしていたら出来たとかできないとか。サビ前のギターとドラムによるブレイクが非常に格好いい。そして「愛してるって女が言ってきたって/誰かと取っ替えの効く代用品でしかないんだ」というフレーズは強烈である。
 メロディーと語感だけに身を任せ、作られた曲ではあると思うのだけれど、このフェイクという楽曲に込められたメッセージはポジティブな意味なのか、ネガティブな意味なのか。
 そしてリスナーがこのメッセージをどう受け取って生き抜いていくのか、なかなか普遍的なテーマだと思う。虚構に満ちた世界の中で、まるでPVの中のメンバーのようにマスクをした人間が狂ったように踊り狂う、その中で幸せを掴めるのは一握り、そんな空気さえも感じる。

愛してるって女が言ってきたって/誰かと取っ替えの効く代用品でしかないんだ(フェイク/Mr.Children)

M-6.彩り

 本作の象徴と言っても過言ではない。そして、ミスチル後半期の象徴と言ってもいい。桜井氏が2000年代でお気に入りのミスチルの曲に「HERO」と「彩り」を上げたくらいに製作者が自負するほどの象徴的な一曲である。このアルバムが発売される前の年のap bank fesで披露され、話題となっていた。その時点では一番ピアノ、二番バンドといった簡素なアレンジであり、その様子は初回限定盤のDVDに収録されている。

 この楽曲が素晴らしいのは、「生きているということがなにかに必ず繋がっている」というメッセ―ジであり、そしてそれを「笑顔」という結論に帰着させている点である。なんといっても、この楽曲を聞いていると、誰かの笑顔が、情景が浮かんできそうで、そういう“明るさ”を楽曲に凝縮できているのはMr.Childrenにしかできないんじゃないかと思っている。例えば「お金持ちのMr.Childrenに、こんなこと歌われても……」と思ってしまう人は、是非SENSE収録の「擬態」を聴いて欲しいな、とも思う。

 大それたメッセージを我々に送るわけじゃないが、聴く人の背中をそっと押してくれる楽曲である。

M-7.旅立ちの唄

 名もなき詩、優しい歌の「うたシリーズ」に入る、と言っていいでしょう。意図的なのか、どうなのか、名もなき詩、優しい歌、旅立ちの唄、それぞれ色が全く違う。
 この曲の最大の長所は「背中を押してるから/でも返事はいらないから」のフレーズでしょう。

 相手を応援するときに、相手からの返事はいらない。

 それが最大のエールであるように感じた。地味だけど、とても大事なことを歌っている。個人的にスルメソング。

M-8.GIFT

 NHKオリンピック公式テーマソング。
 白か黒かで決める勝負があるとしても、その間で様々な色が広がっている。というメッセージソング。
 なんというか、全肯定の楽曲、かな。

 ほんと、その「全てを肯定する楽曲」の一言に尽きるのだけれど、あえて述べるのだとすれば、例えば桜井氏は「2000年代の終わりなき旅」とどこかで言っていた気がしなくもない。
 もう歩き疲れてしまった主人公が、それでも尚、一人で孤独に歩き続けた「終わりなき旅」
 それと比較すると、この「GIFT」は、共に歩く誰か、誰かを思う為の旅、そういう“だれか”をつれた楽曲となっている。

 バンドとしてのアンサンブルはライブで聴くととても素晴らしい。それぞれが自由に動きながらも、常に調和を乱さずに、輝きを零しながら演奏が繰り広げられる。

M-9.HANABI

 この曲の凄いと感じる点は地位も名誉も富も手にした桜井和寿という人間が「どれくらいの値打ちがあるだろう?/僕が今生きているこの世界に/すべてが無意味だって思える(HANABI/Mr.Children)」なんて歌詞を書けてしまう点だ。
 儚さと無力さ、しかしこの時期(2006~2008)ならではのMr.Childrenの煌びやかさが鏤められており、そのあたりが深海やボレロといったようなときに歌っていた無力さとは違う無力さ、なのかなと。

 「深海」の頃に歌っていた無力さは、世界に対する嫌悪感や、苛立ち、怒りから来るものであったのに対し、この「HANABI」から感じる主人公の無力感は、なにをやっても空を切る、感情の拠り所のない、突然東京の喧騒の中に立たされた田舎者の気持ち、とか。
楽曲そのもののアレンジ面などでは、若手バンドに触発されて書いたものとインタビューで語っており、フジファブリックの「若者のすべて」なんかはきっとそれに近いんだろうな、と思っている。
 この頃桜井氏がよく言っていたのが「若者の苦悩とか葛藤とか、お金まで出して聴きたくない」ということ。つまりは、この楽曲は苦悩や寂しさを歌っているようで、とても前向きに生きて行こうと、切なくももがく歌。

M-10.花の匂い

 この楽曲はPVがとにかく素晴らしいと感じた。大切なものを、大切なひとを失っても、まだその温かみや息遣い、感覚が残っているという楽曲。「信じたい/信じたい」と言葉を繰り返す部分が印象的。

M-11.エソラ

 本作のリードトラック。
 メロディーはずっとあったが歌詞が決まらず仮タイトルが「貨物船」であった。森本千絵さんのジャケット案によってタイトルが決まり、歌詞が決まった、という時間軸にならえば、ジャケットのスーパーの袋に「船」が描かれているのも「貨物船」という仮タイトルがあったからかも、と。

 楽曲自体は「人は生まれて死へと向かうことを知りながらも生きることに希望を見出しながら踊り続ける」といった内容をミクロかつポップに仕上げている。前作HOMEの集大成、進化、そして今作の序章、とでも言ったところ。ギターやベース、ドラムの軽快なサウンドも心が軽くなる。
 サビに入る前の間奏がとても聴きどころで、この部分にメロディーが入っていない、言葉のないボーカル、新鮮味のある楽器として加わってきている点がとても好き。
 マイナー調の中に含まれた刹那を知りながらも、ただただ踊り続ける。この「SUPERMARKET FANTASY」は決して後ろ向きじゃないんだけど、でも、ただ消費されるためだけにそこにある、そういう切なさが常に漂っている。

M-12.fanfare

 痺れるような歪んだギターのリフから始まる一曲。“未来”や“ランニングハイ”と言ったような少しだけ時代や自分を揶揄しながら、とにかく前に進もうとする力強いメッセージソング。個人的な感想としてはアルバム“I❤U”を感じさせた。

 曲の長さにして6分という力作で、サビだけでなく、Aメロも音程が高い所で踊っていて、ライブではキーを下げて演奏されている。それだけ張りあげた感じの、力強い流れとリズムで構成された曲となっている。

M-13.擬態

 たしかロッキング・オン山崎洋一郎氏が「名もなき詩の再来」と言っていたような気がするけれど記憶が朧気。でも、そのニュアンスに近いような、ドラミング、ギター、サビの伸びやかなボーカル、疾走感のあるベースは名もなき詩に似ている。まさに「新生ミスチル」と言ったような爽やかなミスチルだ。

 ただ、歌っている内容は多少重い。世の中に溢れたものたちは「なにかの擬態」であり、それらを見抜く力が必要なのじゃないのか、自分のものにする事が必要とされているのではないのか、という歌。人やモノに貼られたいくつもの経歴(履歴)、それらを吟味することなく受け入れることは正しいのか。

M-14.365日

 ライブでは「人が愛し合える日数=365日」というメッセージと共に流れ出す一曲。歌詞の内容はいままでにもあったようなミスチル節が散りばめられている。アレンジはちょっとだけデジタルチックで新しい。きらびやかなイメージ。
 メロディーも“しるし”や“Everything(It's you)”のように張りあげる感じではなく、“君が好き”のように穏やかに流れていく。ファルセットを上手くつかっていて聞いている側も心地よく聴ける。

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