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初期衝動を音楽に灼き付けて / Album: I ♥(love) U(Mr.Children)全曲レビュー

ベストアルバム[Mr.Children 2001-2005 〈micro〉]と[Mr.Children 2005-2010 〈macro〉]のフラゲ日を記念して勝手に更新。
本作「I♥U」はMr.Childrenのアルバムの中でも上位に入る大好きなアルバムです!

本作「I♥U」はMr.Childrenにとって12作目のオリジナルアルバムである。
“衝動”をテーマに13篇のラブソングが綴られている。ボーカル桜井氏曰く「様々な愛の形」がこのアルバムで綴られている。

その“衝動”と“愛”というテーマをキーワードに作られたジャケットはとても印象的だ。染みのついた古びた原稿用紙に叩きつけられたように潰されたハート型のトマト。
もともとは“釘と磁石”といった案もあり、Mr.Children含めアートディレクターの丹下氏が表現したかったのは「愛は痛々しくもあり、衝動的でもあり、愛おしくもあるもの」ということである。この潰されたトマトがそれを端的によく表している。僕自身もMr.Childrenのジャケットの中ではお気に入りのデザインかもしれない。

また“衝動”をテーマにつくられたと言われる楽曲であるが故に、一曲目のガツンと鳴らすギターのストロークから始まるM-1.worlds end含め、衝動的な歌詞、メロディー、物語、アレンジが多い。衝動的でないものと言ったらシングル曲やラストの潜水、ぐらいじゃないだろうか。

ちなみに歌詞カードが楽曲をモチーフにしたレイアウトになっていて、僕はとても大好きでずっとこうしてほしいぐらいだが、発売当時はあんまり評判がよくなかった。よくもわるくもとても話題を呼んだが。

[I♥U:MR.CHILDREN]

I LOVE U

I LOVE U

  • アーティスト:Mr.Children
  • 発売日: 2005/09/21
  • メディア: CD

M-1.worlds end

衝動的なエレキギターストロークから始まりドラム、ベース、ピアノ、ストリングスが参入し、一気に加速していく。そこに歪を生じさせるようにボーカルの唸るような声が入る。
ライブでは定番の曲となりつつあり、スクリーンにメッセージ性の高いインスタレーションが映し出されたり、Mr.Childrenメンバーのお気に入りの曲でもあるように伺える。5/10発売のベスト盤[Mr.Children 2005-2010 〈macro〉]の一曲目にも収録されており、Music Stationでもベスト盤のプロモーションとして披露された。
歌詞の内容も素晴らしい。まさに傑作。
PVも印象的。

飲み込んで吐き出すだけの/単純作業繰り返す/自動販売機みたいに/この街にボーっと突っ立って/そこにあることで誰かが/特別喜ぶでもない/でも僕が放つ明かりで/君の足元を照らしてみせるよ(worlds end/Mr.Children)

なんにも縛られちゃいない/だけど僕ら繋がっている(worlds end/Mr.Children)

M-2.Monster

いつだったか佐野元春氏との対談で「Q.この楽曲はなかなかファンに理解を示してもらえなかった、というものはありますか?」という問いにこの楽曲を上げていた。当時のインタビューでは「ハードロックを意識した」と書かれており、この頃のMr.Childrenでは歌われなくなりつつあった「社会風刺」的な要素が含まれている。

M-3.未来

四次元~four dimentions~に収録されている楽曲。名曲である。ポカリスウェットのCMソングとして作られ意図してかせずかサビの部分が15秒にうまくあい、CMとしての完成度も高かった。
歌詞の内容もセンセーショナルで若い人間の共感を強く呼んだんじゃないかと思っている。一向に前に進んでいないのだけれど、それでも新しい何かを待ち望んでいる主人公の楽曲。

M-4.僕らの音

噂、というか多分ガセなんだろうけどアートディレクターとして関わっている丹下紘希の短編映画の主題歌用に作られ、その映画は反戦等の社会問題を訴える内容になっていて、それに沿うように作られた、と聞いてそれにとても納得してしまい、いまでもそういう視点でこの楽曲を聴いてしまうことがある。
というのも、9.11がモチーフに作られているのではないか?というガセネタなのだ。

確かにインタビュー等で「9月は夏休みとかで雰囲気がガラッと変わってしまっている女の子がいるから、その変わってしまった雰囲気に動揺している男子の気持ち」と桜井氏が語っているけれどそれにしても「9月」ってピンポイントすぎない?と思いながら読んでいた。

君は九月の朝に吹き荒れた通り雨/叩きつけられて/虹を見たんだ/そこで世界は変わった(僕らの音/Mr.Children)

9.11に重ねると(もちろんきっとガセなんだけど)、すごくぴったり合ってしまう。そして桜井氏自身が9.11以後「アメリカ的価値観が崩壊し、これからは自分たちで価値観を築いていかなくちゃいけない」といったようなニュアンスを度々インタビューで語っていたところから考えるとこの「僕らの音を奏でる」という行為は「(9.11などで世界が震撼し、リズムやハーモニーが多少ずれてしまったとしても)なにものでもない、自分たちにしかない音を奏でていけばいいのだ」といったように解釈できる。
しつこいようだが、ガセネタである。

M-5.and I love you

もう、これ以上の名曲はないんじゃないか?というぐらいの名曲。兎にも角にも本作は名曲が多い。困った。
日清カップヌードルのCMソングとしてテレビで楽曲が流れていた。アコースティックギターを掻き鳴らしながら「傷つけあう為じゃなく/僕らは出会ったって言いきれるかなあ?」と反戦の映像と共に流された終いには心を動かされずにいられない。人と人が出会う、ということはどういうことなのか、僕らはどんな敬意を、愛情を君に示していけばいいのか。

アレンジも最高である。二番のサビから大サビへとつながっていく。いまのMr.Childrenであったらsplit the differenceで披露した横断歩道を渡る人たちや風と星とメビウスの輪のように大団円につながり壮大なアレンジをするんだろうな、と思いつつ、この状態のMr.Childrenでこの状態のand I love youを制作したことに意味があるし、ベストだし、最高であったと僕は思っている。

ちなみに、これもガセネタであるけれど、最後のand I love youと様々に声色を変えて歌っているのは「様々な人種のI love you」を表現しているのだとか。

傷つけ合う為じゃなく/僕らは出会ったって言い切れるかなぁ?/今分かる答えはひとつ/ただひとつ(and I love you/Mr.Children)

M-6.靴ひも

 まさに衝動を表現した一曲。もうどうでもいいから君に会いに行かなくちゃ、という楽曲。いままでのMr.Childrenはどちらかというと地団駄踏んで動き出せずにいるウジウジした男性が主人公だったりするのだけれど、この楽曲の主人公も多少そうである。
間奏でネジを巻く様な音が入っていて、ライブでも実際にネジを巻くシーンが映像化されているのだけれど、あまり意図はわからない。これから走り出す、ということを表現したかったのだろうか。
ちなみにアレンジは衝動的なボーカルと違い、静かで衝動を必死に抑えようとしているアレンジになっているのだけれど、ap bank fesなどで披露された靴ひもはロックバージョンと噂を聞く。一度聞いてみたい。

M-7.CANDY

 Youtubeで再生回数がとても高かった楽曲。HANABIなんかと同等ぐらいだったのではないだろうか。きっと、諦めなければいけない恋を患ってしまい未だに完治できない、というもどかしい感情とそれをうまく表した歌詞が共感を呼んだのだろう。特に男性目線、女性目線、と限定されるものでもないし、歌詞の一発目のフレーズから世界観が伝わってくる。まさに衝動。その動き出す前夜、みたいな。
メンバーがプロモーションビデオを作るなら主演は明石家さんまさんだ、と言っている。

諦めよと諭す回路に/君がそっと侵入してきて(CANDY/Mr.Children)

M-8.sign

フジテレビ連続ドラマ「オレンジデイズ」の主題歌。
Mr.Childrenの代表曲のひとつ、と言ってもいいのではないだろうか。
この辺りまでは、前アルバムが出た次に出るシングルが、前アルバムで言いたかったことの総括、と言われてまさにsignは「シフクノオト」の総括であると思う。
物事の小さなサインを見落とさないように、そして相手に干渉しすぎないように、譲り合いながら生きていく、優しくて温かな楽曲。
特にイントロからAメロへの繋ぎ、Aメロのアコギと歌詞が素晴らしい。

M-9.ランニングハイ

 「Q.甲、乙ってどっから出てきたの?」という問いに「A.うーん、なんかそういう書類を書いてたんでしょうねえ(笑」と意味深に答えていた楽曲(に関係ない)。
Mr.Childrenのツアーでのライブアレンジよりもspace shower(2005)の野外ライブでのアレンジが一番好き。
“時代とか社会とか/無理にでも敵に仕立てないと/味方を探せない/愉快に暮らせないの?”というフレーズは痛快。
いままでの社会風刺のMr.Childrenじゃなく、世界や生き方、価値観、それらを攻撃的に、しかし守備もしつつ、そしてベストな表現で訴える。
こういう歌詞はMr.Childrenにしか書けないと思う。
ふてくされているだけじゃなくて、問いにたいしての、答えがある。

仕組んだのは他の誰でもない/俺だって自首したって/誰も聞いてない/まして罪が軽くなんかならねぇ(ランニングハイ/Mr.Children)

そして、前に進もう。背中を押してくれる。
力強く。

M-10.DOOR

ライブでは一度も披露されていない楽曲。ボーカルは屋外で録音されたもの(もしかしたらクラップかもしれない)。
当時、桜井氏がブルースにはまっていて、次回作はブルース色の強いアルバムかも、と言っていたがHOMEにそのような影は一切なかった(笑)
ちなみに「DOOR」は本作「I♥U」のタイトル候補であった。

M-11.隔たり

インタビュー等々で「少子化」を意識して作られた楽曲と度々言っていて、すごく嫌いだった。ので、ずっと聴いていなかった。しかし、split the differenceのアレンジを聴いてとても好きになった楽曲。個人的にはsplit the differenceの「隔たり」を聴いてほしい。
表現がストレート過ぎる部分はあまりにも狙いすぎな感じで未だに「ん?」という感じなのだけれど、“魔法にかかる”“羽虫が僕”といった比喩表現はMr.Childrenの中でも素晴らしい比喩表現であると思っている。「少子化」とか意識せずに書いてくれればきっと「Drawing」のような美しい楽曲になってたのに!なんて思ってしまう。
しかし、そういう生々しい部分を表現しようとしたからこそ、美しく聞える反動が強くあるし、衝動的なメロディーになったのかもしれない。サビに入る前のシャウトが最高である。

君は美しきスパイダー/羽虫が僕/あえて飛び込んでいくんだ(隔たり/Mr.Children)

M-12.跳べ

Mr.Children的な楽曲。前作シフクノオトでいえば「天頂バス」のような楽曲。サビ部分で「跳べ!」と力強くシャウトし、大サビにつながる展開が少々テクノチックである。
有名人シリーズでいえば「みのもんた」が登場してくる。
地味にいいこと言っているけど、Mr.Childrenにはもっといい曲たくさんあるから埋もれちゃうのかな、とか考えちゃうポジションの楽曲。もう何度かライブで披露して、もうちょっとだけ脚光を浴びてもいいような逸材ではあるんじゃないかと思っている。

M-13.潜水

アルバム「深海」を多少意識していたことを言っていたような、言っていなかったような。
It's a wonderful world~シフクノオト期の心情を書き綴った楽曲。
メンバーがバラバラになってしまったが、そこに危機感は感じておらず、これはこれでいいのだ、と俯瞰的に見ている。
最後の「ラララ」の合唱は個人的にはすごく好きGIFTのそれよりも、夜の街の明かりの中で聴いたりするとグッとくる。
GIFTのラララはライブでの合唱を視野にいれ意図的に作られたが、この「ラララ」はどうだったのだろうか。

実際、この辺りまでのMr.Childrenと次作からのMr.Childrenは大きく違うと個人的には思っている。
そして、このアルバムは「Q」を踏襲し、うまく昇華し、それを衝動という形でMr.Childrenのフィルターを通し表現したアルバムだと思っている。
傑作、という言葉がよく似合う。