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Album:RAY/BUMP OF CHICKEN[レビュー・感想]

▼懐古から未来へ
BUMP OF CHICKENにとっての3年ぶりとなる通算7枚目のアルバム「RAY」
“宇宙”と関連つけた作品を多く出してきた彼らだがアルバム「orbital period」あたりから、その色は濃くなってきていて、今作「RAY」も例外ではなく“光線”といった僕らに降り注ぐ目のは見えない未知のエネルギーを予感させる一作となっている。

まあ、こんなことを言葉にするとヘンな印象がついてしまうかもしれないが、BUMP OF CHICKENにとって震災後はじめての世に出すアルバムとなる。彼らが全くの関係なく活動してきたかと言えばそうではないし、「smile」といった楽曲が世に放たれたように、隠すことではなく、いつかのインタビューでも語られていたように彼らにとって震災という事象は音楽に少なからず影響を与えてきたものになっている。

今回のアルバムは音楽的にも、詞の内容的にも、いままでのBUMP OF CHICKENの楽曲と比較すると非常に光に向かって鳴らされている。
もうすでにきっと“BUMP OF CHICKEN”の鳴らしたい音楽であるし、“プロのミュージシャン”を感じさせる先進性も感じさせるし、とにかく進化を止めない、BUMP OF CHIKENというコンテンツは決して崩れるものではないという信念のもと、彼らが鳴らす音楽は常々に方向を変えてきている。
つまり、音楽性を変えてきているにも関わらず、BUMP OF CHICKENの良さは損なわれていないプロとしての卓越した技術だ。

そして、バンドとしての技術も非常にあがっている。初音ミクとコラボしたというのも、その理由のひとつかもしれないし、ボーカル藤原氏の“歌”がとにかく丁寧だったり、繊細だったり、大胆だったり、楽曲ごとに聴いてわかるように熱が伝わってくるのがとても素晴らしいと感じた。
「COSMONAUT」で綴ったノスタルジー、現在から振り返る過去、重く靄のかかった向こう側へ雨の匂いを吸い込んで飛び立ったグライダー。その先に降り立った地に感じるのは、どこか距離感のつかめない未来からの「RAY」

[BUMP OF CHICKEN:RAY]

▼高揚感から目一杯の音の音像へ飛び込む
アルバムのオープニングは「WILL」によって鳴らされる。インストながらも、煌めきを放ちアルバムの幕が開かれるための高揚感を大いに与えてくれる楽曲となっている。繰り返されるギターのフレーズも徐々に煌めきの中へと歪と共に溶け込んでいき、これからの「RAY」に対するリスナーの期待感と夢を膨らませてくれる。こういう、一見シンプルに聴こえて、でも、新しい試みで幕を開くのは、BUMP OF CHICKENの格好よさ。

「虹を待つ人」は、まるでバンプのようでバンプじゃない、煌めくダンスポップチューンだ。“眠れなかった体に/音が飛び込んでくる(虹を待つ人/BUMP OF CHCIKEN)”といったフレーズが表すように、まさに僕らの身体に音が飛び込んでくる。全方位で鳴らされるシンセとドラムのフレーズが胸の鼓動に訴えかけてテンポをあげる。
ある意味では、彼らにとって実験的な、けれどおそらくこのアルバムを制作する際にキーとなった一曲のひとつではないかと思う。

次の楽曲である「RAY」はまさにアルバムタイトル曲であり、リード曲でもあり、本作のキーとなる楽曲であろう。2013年のツアー「WILLPOLIS」で披露された楽曲。「虹を待つ人」同様に四つ打ちのキックが心地よき響き渡り、滞ることなくメロディーが流れてゆく。
心なしか、ボーカル藤原氏の歌い方が非常に綺麗で、いい意味で癖がぬけている気がする。「虹を待つ人」よりも、バンド要素が非常に強く、かちって音数が減ったわけではなく、デジタルとバンドの掛け合わせ具合が非常にうまく調和されているんじゃないかと思う一曲。

晴天とはほど遠い/終わらない暗闇にも/星を思い浮かべたなら/すぐ銀河の中だ(ray/BUMP OF CHICKEN)

▼エレクトロから一転して畳み掛けるバンドとしての技量の高さ
この後から、リスナーはまだ未聴のはずの新曲が続く。「サザンクロス」と「ラストワン」はとにかくバンドのアンサンブルが素晴らしい。この流れの中で打ち出されるバンドの本質の強さ。
ボーカル、ギター、ベース、ドラム、どれもこれもがひとつひとつ大胆に鳴らされて、その歌詞のメッセージを僕らの目の前に差し出してくる。そして、背中を支える。特に「サザンクロス」は、BUMP OF CHIKENの技術面、そして息の合っているメンバーそれぞれの空気感が伝わってくるし、その後の「ラストワン」は、そのアンサンブルを持ってなお、シンプルに畳み掛けてくるバンドとしての強さを感じる。
歌詞の世界観として「ラストワン」はBUMP OF CHICKEN得意の人間の下向きがちな内面に迫った内容となっている。忘れようとしていること、目を背けようとしていること、けれど決意できるのも自分自身でしかないこと。それが“ラストワン”だと思うことで、感じることで、ただ一度だけだと決意するだけで、変わることもできるのかもしれない。
サウンド面は勿論、この「虹を待つ人」や「ray」からの一転したインパクトは、アルバムのとしての構成の肝のひとつでもあると思う。

印象的なギターのリフから始まる「morning glow」、ドラムとベースが一気に入り込んできて跳ねるドラムのリズムが癖になるように曲のフックとなる。なにかの始まりを予感させるような、初期のバンプを彷彿とさせるような(個人的には「jupiter」〜「ユグドラシル」)、ギターの歪んだサウンドを尊重した構成になっていると思う。
価値観をぐるっと変えて、いまある未来も過去も現在も、新しいものに変えてくれる楽曲。よくもわるくも“初めまして”とは別れることのできない人生の連続的な一面を切り取っている。その先にあるものが良いものであれ、悪いものであれ、それは“morning glow”なのだと。

あんなに夢中で追いかけてたのが/嘘みたいだけど本当の今/
大切にしてきたけど実はただ/そう思い込んでいただけ(morning glow/BUMP OF CHICKEN)

「ゼロ」は、ファイナルファンタジー(“FINAL FANTASY零式”)のOPタイアップとなった楽曲。藤原氏が綴る“終わり”に対する刹那を独特のメロディーで歌い上げる。優しく歪んだギターが自然に溶け込み、「ゼロ」の世界観をうまく表現している。重たい物を決して軽くせずに、そのままの質量と熱量で歌い上げるメッセージソング。

広すぎる世界で選んでくれた/聞かせて/ただひとつの/その名前を(ゼロ/BUMP OF CHICKEN)

▼聴きやすく流れ込みやすいメロディーと、シンプルながらも強いアレンジ
「トーチ」は、このアルバムの中でも個人的には非常に爽やかなのではないかと感じている楽曲。
メリハリがしっかりとついていて、とてもキャッチー。それでも意外と、こういった楽曲ってバンプにあるようでなかったような?と思ったりしている。

震える足でも進めるように/自動的に空が転がるように/
次々襲いくる普通の日々/飲み込まれないでどうにか繋いでいけるように(トーチ/BUMP OF CHICKEN)

本来は弾き語りスタイルで綴られていた「Smile」も、本作ではバンドアレンジとなって楽曲の長さも7分となっている。
いずれにせよ「Smile」僕らに教えてくれるのは、“自分自身の大切さ”だ。向き合うでもなく、逃げるでもなく、その時が来た時に、“映った人”が諭してくれる。
言葉にならない“ああ”というボーカル藤原氏の叫びは、多くの人の胸にストンと落ち瞬く間に沁み込み始め優しさを伝えてきたのだろう。“映った人”はきっと僕たち一人一人のことだけではない、それを想うまた誰かの為の歌でもあるのだろう。
曲が終盤に進むにつれて、スピーカーの向こう側から届く程に演奏は熱のこもったものになってゆく。メロディーはこんなにもシンプルで繰り返すのに、中だるみをさせないバンドアレンジは、素晴らしいと思う。

▼スピード感のある「firefly」、遊び要素のある「white note」
本作はおおよそミディアムテンポの曲が多く、アレンジに幅があることでリスナーを飽きさせない構成となっているのだけれど、「firefly」はハイテンポの疾走感ある楽曲となっている。
この「firefly」も、ある意味では「smile」同様に「現在」「自分」といった「自身の軸となるもの」の大切さを歌っており、けれどそういう「自身の軸となるもの」はたくさん存在していて、ある意味では蛍のように自由自在に心の中を飛び交っていて、捉える事ができない。
それに対して“色んな場面を忘れていく/命の仕掛けは/わずかで全部(firefly/BUMP OF CHICKEN)”といったフレーズにもあるように“忘れていってしまうこと”の刹那も同時に綴っている。
そして、この楽曲はイントロのギターのアルペジオ、そして掻き鳴らされていくストローク、合わせる様に流れ込んでくるベースといった楽器の魅力もたくさん詰まっている一曲。なによりリムショットを絡めたドラムのアプローチがひっそりとA メロでリスナーを引き込むための楽曲の世界観を支えている。
アコースティックギターの弾き語りと、韻を踏んだ軽快な詞で綴られる「white note」は、どこかウェスタン調の雰囲気も感じさせながらバンドとコーラスが徐々に重なり合っていって、“楽しい歌”を象徴するように曲は展開していく。
実はみんなそれだけを思っていて、陰でも陽でもない、ただ音に溺れて、あるがままに楽しめる時間だけがあればいいのに。その思いだけがあればいいのに、と切に願う歌。

ラララ 思いだけはあるのに/ラララ だけなら楽しいのに(white note/BUMP OF CHICKEN)

「友達の唄」は、いい意味でいままでのBUMP OF CHICKENにはなかったようなミディアムバラードだな、と個人的には感じた。
「魔法の料理」でもあったような、幼少期の記憶を擽る様な、切なくて愛しい楽曲。
思い出の中をぐるぐる廻る様な、それを助ける様な優しいメロディーと引き上げる様な荘厳なストリングスのアレンジ。
決して張り上げることなく、メロディーは綴られて、コーラスのかかったクリーントーンのギターが心地よくL-Rで鳴り響く。

▼「(please)forgive」から「グッドラック」へ
「(please)forgive」はサビだけ試聴していた時は、どうかな?と感じていたけれど、イントロ〜Aメロからの流れがとても素晴らしくてサビまで惹き込んでいく、曲としてちゃんと聴いてちゃんと成り立つ名曲だと感じた。
「COSMONAUT」期からインタビュー等で語られていた楽曲、つまりは存在していた楽曲だからどこかその名残は見せつつもあるのだけれど、アレンジはやはり今回の「RAY」の軽快さに近い。サビまでの音の運び方がまさに丁寧に、かつスピードを落とさずに“僕らの行きたい場所”まで連れて行ってくれる。
この楽曲を聴くと、夢も希望もなかったはずなのに、“あなたの行きたい場所まで”確かに行けたらいいよなあ、と生きる気力がどこか湧いてきてしまう。
「beautiful glider」で綴られた“飛び立つしかなかった”という言葉に対する“あなたの行きたい場所まで/どうかあまり揺れないで/無事に着きますように”というフレーズ。
僕らは飛び立った以上、誰かの理想とする場所へ、もしかしたらそうじゃない場所へ、きっと辿り付きたくてしょうがない。

あなたを乗せた飛行機が/あなたの行きたい場所まで/
どうかあまり揺れないで/無事に着きますように((please)forgive/BUMP OF CHICKEN)

「グッドラック」に関しては、アルバムのラストに来て、色を濃くするような、ある意味ではスルメソングだと思っている。
メンバーそれぞれの演奏が、役割がしっかりと表れている楽曲だと思うし、メジャーとしてのポップスとしての音楽が鳴らされている楽曲だとも思う。
まあ、とにかく詞が優しい、演奏も穏やかに、ぶっちゃけ「beautiful glider」でも言っていたことに近いのだけれど、飛び立つ時はきっと誰でも一人で、孤独で、でも“グッドラック”って祈りを互いに捧げながら、惜別の時を迎えなくてはいけない日が来る。
そういう刹那がバンプには非常に合うし、このアルバムの最後を飾るのにも相応しかったのだと思う。

くれぐれも気を付けて/出来れば笑っていて/騙されても疑っても/選んだ事だけは信じて(グッドラック/BUMP OF CHICKEN)

▼かるいまとめ
個人的には「COSMONAUT」がめちゃくちゃ名盤過ぎて、今回のアルバムはそういえばオープニングとエンディングの関連性のないアルバムだったなあとか思っちゃったのだけれど。
とにかく明るくなった。それでも「なんとか生きて欲しい。生き抜いて欲しい」っていうバンプのメッセージは変わらずだし、どこかで失うことと手に入れることの対比は必ず入っている。
ある意味ではカラフルな、質量のある楽曲がたっぷりつまった豪華なアルバムであると、個人的には感じました。

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