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今日も無事なら明日も無事でいて。そんなくだらない話。

光/宇多田ヒカル

宇多田ヒカルの名曲とは何か、と聴かれたら真っ先にこれをあげるかもしれない。
邦楽のヒット曲の中でも他の曲に劣らず、素晴らしい音色を放っていると思う。
これが僅か19歳?20歳で産みだされたというのだから驚きである。

光

“光/宇多田ヒカル”はストレートなサビから入る。
パーッと光が目一杯に広がり、だんだんとその光源が絞られていく。
やがて、暗闇に切り替わりAメロへと入る。

明かりひとつない、なにも見えない暗闇の中で掻き鳴らされるアコースティックギターと独特の旋律で闇を泳ぐように歌声が響く。
そこから「暗闇に光を撃て」と歌われる内容につられるように徐々に光が点いていくようなサウンド
この楽曲において象徴される“光”はサウンド的にはいくつのもスポットライトが様々な角度から徐々に当てられていく感じがする。

▼歌詞が伝える未来も過去も現在も光で真っ白にしてしまう強さ
歌詞に関しては、この曲はどのフレーズも印象的で特にBメロがよい。

先読みのし過ぎなんて/意味のない事は止めて/今日はおいしい物を食べようよ/未来はずっと先だよ/僕にも分からない(光/宇多田ヒカル)

というフレーズは本当に素晴らしい。
本当に10代が書いたのか?と思ってしまうけれど、10代にしかない感性を20代の技術で切り取った独特の感じ、と言えばよいだろうか。

共感を呼ぶフレーズを書くのは簡単だ。
抽象的で、シンプルなキーワードを鏤めればいい。
「明日はきっと明るい/そう信じてみるけれど/うまくいかないことばかり」
この一文で“明日は明るいものだと思いたい”という人間と“明日なんてどうせうまくいきやしない”と捻くれている人間の両方にメッセージを発信できる。
勿論、前後の流れをうまく組む必要があるので歌詞にするのは、そこが難しいのだけれど。

この“光/宇多田ヒカル”のBメロのフレーズの素晴らしい個所は、“未来はずっと先だよ”と抽象的に歌っている点に対し、“今日はおいしい物を食べようよ”と突然ミクロな視点にフォーカスしている部分だ。

▼手の届く範囲にある幸福な未来へ
未来のことを考えない必要はない。
ただ、分からないこと、手の届かないものへ思いを馳せ心配や不安に揺れるより、“すぐ先の未来の幸福”に手を伸ばそうと歌う。

そのあとにある“君という光が私のシナリオ/映し出す”というフレーズの通り、“現在よりちょっと先の未来”を照らし続けることの大切さを歌っているんじゃないかと思っている。

もっと言えば“ずっと先の未来”を先読みすることは“未来を完成”させてしまうことになるのではないだろうか、と。
もっと目の前にある幸福を、目前の幸せを照らしたらいいじゃないか、ずっと先の未来なら、その時照らせばいいじゃないか、と。

▼ラスサビに向けて畳み掛けるアレンジ
この楽曲のすごい部分は、その大団円に向けて畳み掛けるアレンジだ。
煌びやかなコーラスとシンセがサウンド中を駆け巡り感情的に伝うボーカル。
これだけ繰り返し歌われているのに、まったく飽きさせずにどんどん展開していく、光がどんどんと増えていく様に感じるアレンジはすごい。
今聴きなおしているけれど、やはりバックで楽器のようにループするコーラスがやっぱいい。

そして徐々にフェードアウトしていく。
聴き終わった後は、なんとも言えない感情が胸に残っているが、それは確実に前を向かせるなにかに変わっている、と言える。