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イミテーションとしての強さを演奏するMr.Children / Album:[(an imitation) blood orange](Mr.Children)全曲レビュー

 まず、はじめに言いたいのは、Mr.Childrenは“素晴らしい音を鳴らすバンド”だってこと。
 ボーカル、ギター、ドラム、ベース、ピアノ、ストリングス、ブラス、すべてが調和して、目を閉じるとすべての楽器が中心に向かって、それぞれがそれぞれの音を優しく強く奏でている風景が浮かぶ。
 とりわけ「HOME」あたりから、その音の素晴らしさは溢れ出ていて、ヘッドホンから聴こえる世界は希望に満ちていた。本作「[(an imitation) blood orange]」は、その「“Mr.Children”の音の素晴らしさ」を堪能できる、もちろん、詞もメロディーもアレンジもそうなんだけど、誰にも真似できない唯一無二の「Mr.Childrenの音」そして「Mr.Childrenの世界」が完成している。
 とにかく、揺るがなくて強い。不安定さがない。イミテーションは、枯れたり、成長したりしないけど、ほぼそのままの姿で生き続ける。「イミテーションの木」にあるように「“永遠”の緑」であれることがイミテーションの強さなのだ。


 既発曲8曲、つまりMr.Childrenファンがこのアルバムを通して初めて聴く楽曲は、ほんの3曲。
  プロモーションの方法が前作「SENSE」とは打って変わった本作「(an imitation) blood orange」、けれど雑誌等のインタビューには応じていない(曰く”それぞれの考え方、感じ方”で聞いて欲しい、とのこと)!
 しばらく時間が経たないと、どんなアルバムかは言葉に出来ないけれど、ジャケットの雰囲気とか、曲群で考えると「SUPERMARKET FANTASY」っぽさがあるかもしれない(ジャケットの作りなど。ちなみにアートディレクションは、丹下紘希さん)。けれど、「SUPERMARKET FANTASY」は僕からしてみると雰囲気が重苦しいアルバムなので、その点で「(an imitation) blood orange」は外に向かった、放たれた、開放的なアルバムと言えるかもしれない。
 とにかく今まで以上にライト層にオススメするアルバムになるのではないかと。「SENSE」の意思は受け継いでいないのがちょっと残念(予想はしていたけど)。そんな感想。

 ストリングスが満載のアルバムですね。すごく、前に出てます。そして、マスタリングはベスト盤に続き、TED JENSEN。

[(an imitation) blood orange]:MR.CHILDREN

[(an imitation) blood orange](初回限定盤)(DVD付)

[(an imitation) blood orange](初回限定盤)(DVD付)

  • アーティスト:Mr.Children
  • 発売日: 2012/11/28
  • メディア: CD

M-1.hypnosis

 ダウンロード配信のみだった楽曲。「トッカン―特別国税徴収官−(日本テレビ系)」のタイアップ曲。ドラムのタムからの入りが「Everything(It’s you)」っぽくて、「hypnosis」もアルバム一曲目になるんじゃないか、となんとなく思っていた。
 滑らかなメロディーとアコギとピアノで情景を映し出すAメロ。Mr.Childrenの楽曲で情景を映し出してから入るものは多くないので、そういう意味では珍しいんじゃないだろうか。「なにかが終わった後の風景」というのが似合う。「Prelude」もそう。Bメロでの張り上げるようなメロディー、そしてサビで「もう現実に戻れなくてもいい」と張り上げる歌声。

 この楽曲の主人公は「生きたい」とか「叶えたい」とかそういう明確な思いや心情の元、苦しんでいるのではなく、それすらない「曖昧な感情」を片づけられなくて、右か左か迷って、葛藤の中、苛々しながら重い一歩を踏み出していく様が感じられる。

 ラスサビのバンドサウンド→ピアノ、ストリング→バンドサウンドと音像が変化していくのも個人的にはグッとくる。ストリングスが終始裏側でなっているし、控えめでもなく、主張気味な音だけど、なめらかで聴きやすい良い使い方じゃないかな、と思っている。

オブラートに包んで/何度も飲み込んだ悔しさが/今歯軋りをしながら僕を突き動かす(hypnosis/Mr.Children)

M-2. marshmallow day

 これ、なかなかスペルが覚えられない。

 アレンジに関して言えば、爽快でポップなアレンジ。「youthful days」でも感じられた風を切るような爽やかさが漂う一曲。世界観に関して言えば、「youthful days」にあったような、“甘酸っぱさ”“青春っぽさ”は少ないんじゃないかな、と感じる。「youthful days」が“10代”の歌を歌っていたのに対して、「marshmallow day」は“20代後半〜30代”の心情を歌っているような気がする。だって「睡眠不足が続く日でも/君に会えるんなら飛んでく」って“時間がない人”の言葉だよね。
 サビに関しては、ミスチルっぽいなあ、と思いつつ。Aメロは大人っぽい、低音をそっと這っていく様な渋いラインを辿っていてセクシー。
“大人(社会人)の恋愛の歌”をあえてバラード調ではなく、詞もアレンジも、ポップに仕上げた、という感じ。

M-3.End of the Day

祈り ~涙の軌道 / End of the day / pieces(Mr.Children) - 今日もご無事で。
 ↑ここで詳しく書いてます。
 個人的にはライブで聞いて、心をグッと前に進めてくれる名曲だ、と思いました。

 アルバムで聴くと、より一層輝くなあ。

End of the day/どのくらいの価値があるんだろう?/End of the day/今の自分に(End of the day/Mr.Children)

M-4.常套句

 「遅咲きのヒマワリ〜ボクの人生、リニューアル〜(フジテレビ系)」のタイアップ曲。

 ピアノとボーカルだけ、ではないけれど、それぐらい簡素なアレンジの楽曲。2012年5月10日のライブで「ちょっとだけ」と披露された楽曲が、そのまま、ほとんど修正を加えることなく音源化した。
 正直、シンプルな歌詞って共感を呼ばないはずがないから、なんか微妙な気持ちなんだよなあ。いい曲だけど・・・ねえ、って感じ。周りのライト層、年齢の高い人たちにも「ミスチルの常套句って曲がいい」と受けていた。
 「しるし」「365日」「常套句」と徐々に世界観が小さくなっていきながらも、歌っていることの核は同じ。
唯一気になるのは、タイトルをどうして「常套句」にしたのか?ということ。皮肉なのかもしれないし、そうでないのかもしれないし。。。

M-5.pieces

 割と発売当時、今もかな?評判がよかった曲。「映画:僕らがいた(後編)」のタイアップ曲。and I love youと出だしのコード進行と似ているのは、なにか意図があってなのだろうか?インタビューないから気になる。
 この楽曲はメロディーも、歌詞も、アレンジも、まさに“pieces”だな、と思う。Mr.Childrenは整理整頓された所謂“上手な”歌詞が多いのだけれど、“pieces”は歌詞もバラバラになっている気がする。
こことここをつなげて、こことここがこうで、あ、もしかして、こうなる?みたいな、パズルのような歌詞の印象を受ける。

 そして、メロディーもアレンジと共にどことなく歯切れが悪い。音質が悪いという意味ではなく、なんとなくラジオから途切れ途切れのメロディーが聞こえてくるような。コード進行も、素直に流れていくわけではなく、バラバラにチリチリに、ぎこちない感じだし。

 ライブでは一度も披露されていなくてファンからの要望がとても強いのだけれど、これはきっとライブで化けるんじゃないか!と思っている。アレンジ化けする曲だと思う。
HOME期に一曲混じっていたらなんとなく受け入れられそうな、渋い楽曲だと思っている。ただいまのミスチルの色じゃないような?とも思う。

M-6.イミテーションの木

 偽物にも、人を癒す力はある。例え紛い物でも、意味はあるのだ、という曲。
 僕からすると、イミテーションの木は、イミテーションという本物なのであって、偽物ではない、偽物かどうかは、本物を求めているかどうか?で大きく変わってくるのでは?という、ちょっと捻くれた気持ちもありつつ。。。
 ま、曲が伝えたいメッセージはきっとそんなところになくて。

 HOMEに収録されている「彩り」にも通ずるような、どんなものでも意味はあって、それぞれがそれぞれに影響し合って生きている。
 少しだけ感傷的な主人公の心情はきっと自分の心の中にはもうない、記憶だけに鋸っている「情熱や夢」を知っているからなのだろう。

 この曲は情景描写が繊細なのだけれど、僕が、心に思い浮かべたのは「アメリカの吹き抜けのある大型ショッピングセンターにあるイミテーションの木と、そこではしゃぐ子供、家族」かな。日本だとイオンとか、ララポート?とか、思い浮かべた。
 なんとなく洗礼されていて、未来都市のような、その中で生きていく人たちの歌、というイメージ。
 だって、これから僕らは電子化だのなんだので、本物か偽物かなんていちいち言っていられないような未来に生きていくことになるのだと思う。
でも、確実に、そういう無機質なものにも意味はあって、そこにある。これは音楽がCDからダウンロードに移行していくことにも通ずるんじゃないだろうか?
 アナログだった過去から、デジタルの未来へ、時間は残酷だけれど、覚悟して偽物に飛び込んで、偽物の中で生きていかなくちゃならない。

 前半が「本物」で後半が「イミテーション」の構成のようにも受け取れる。

リニューアルしたビルの中/イミテーションの木が茂る/その永遠の緑をボーっと見ていた(イミテーションの木/Mr.Children)

M-7.かぞえうた

 背景を考えるか、考えないかで評価も変わってきてしまうんじゃないかな、という楽曲。
 純粋に楽曲のことだけを考えると、詞に関してはいままでミスチルが歌ってきたこととそう変わらないのではないか?と思う。アレンジに関しては、バンドっぽさが良く出ていてメンバーの熱意が感じられる。もっと音像が厚くてもよかった。
 イントロのピアノ部分がマイナー調なので、なんとなく暗い世界観を想像してしまう。

かぞえうた/さぁ なにをかぞえよう/なにもない くらいやみから/ひとつふたつ/もうひとつと かぞえて/こころがさがしあてたのは/あなたのうた(かぞえうた/Mr.Children)

M-8.インマイタウン

 まさかの歌詞に「twitter」が出てくるメロディアスな楽曲。「Another Story」とか「Mirror」を彷彿とさせる。
 ドラムのハイハットの音が気持ちいいのと、ベースときっちりあってスタッカートを刻むBメロ部分が心地よい。
 年末の人々や町のどこか落ち着かない忙しさを歌う一曲。そういう意味では「さよなら2001年」に近いかもしれない。僕の中では楽曲的にも、風景的にも「東京」とイルミネーションで彩られたクリスマスあたりの東京の街中を彷彿とさせる。どことなく、ジャジーで大人でポップ。

M-9.過去と未来と交信する男

 他人の過去と未来が見える不思議な能力を持った男の歌(もしくは未来と過去にいる何人もの自分自身)。
 「過去も未来も心配しなくていい、杞憂など要らないよ」と話す男の内容を誰もが訝しげな目で見る。
 でも本作「(an imitation) blood orange」に乗っ取れば、それが「嘘」でも「本当」でもいい。
 大切なのは、現在に踏みとどまらずに進もうとする“きっかけ”が、この歌に、この主人公の話に、あればいいだけなのだ。
 良い未来を想像する、ただそれだけでいい、という作り手のメッセージが何度か出てくる「目を瞑って深く息を吸う」というフレーズから感じ取れる。

 アレンジに関しては正直、これやるのが遅かったんじゃないかなあ、と思う楽曲。
 以前桜井氏が雑誌で言っていた「スガシカオさんの歌詞で好きな所は、最初に言っていた言葉が、最後に持ってくるとまた違った意味になる歌詞」が、そのまま歌詞に出ているかな。4つ打ちで鳴るバスドラのリズムで作られたダンスミュージックっぽい所も、ブラック的な要素も、スガシカオ氏から受け継いでいる?のかもしれない。
 もっと歌詞に説得力があってもよかったかな、と思った。心が弱っている時に聞いたらズシッとくるのだろうか。いままでのミスチルデジロックから一歩先に進化した実験的な楽曲だけど、どこか消化しきれていない感じがする。次作あたりに期待。
 多分、このアルバムの中では、癖になって何度も聴いてしまうような、病み付き要素の強い楽曲だ。

M-10.Happy Song

 「めざましテレビ(フジテレビ系)」タイアップ曲。癖になる。個人的には、本作で最も味わい深い楽曲。
 「終末のコンフィデンスソング」のような決して一般受けするではないだろうメロディーと歌詞。とはいえ、イントロとかは豪華でドラマチックなんだけど。
 聴いていても、多分演奏していても楽しい、けれど、どこか混沌としていて、影のある。それらも含めて「悲しいほどにハッピーな歌を歌っていいこう」とメッセージを放つ「Happy Song」

 「いつでも微笑みを」という楽曲が、悲しい現実を前にしても意味を成すだろうか、ということを歌っていたことに対し、「Happy Song」ではどんな状況下でも、信じられないぐらいに能天気な歌を歌っていればなんとかなるんじゃないか、阿呆みたいな歌だけれど、信じてみよう、ということを歌っている。つまり「いつでも微笑みを」が“主人公にとって”誰かに対する歌(Happy Song)であったことに対し、「Happy Song」は“主人公にとって”自分に対する歌(Happy Song)であるのだ。

でも/I believe/相も変わらずに/いつだってこの胸に流れる/悲しいほどに能天気な/Happy Songを歌おうよ(Happy Song/Mr.Children)

M-11.祈り~涙の軌道

 極上のバラード、というよりは「聴きやすいバラード」
 とはいえ、Mr.Childrenが名曲を産みだす際に用いられる最後のサビでもうひとつ転調するという技巧がここでも用いられている。
 Cメロのざわつき感がHANABIっぽい所もあり、インタビューもなにもないから考察のいしようがないのだけれど、「Mr.Childrenの平均的かつクオリティの高いバラード」を意識しているような気がする。
Mr.Childrenの楽曲の中でもメロディーラインがとても綺麗な部類であると思うし、コード進行もベタな流れにちょっとスパイスがついていて、工夫がある。
 映画「僕らがいた(前篇)」のタイアップだったこともあってか、少しだけ切なさを漂わせ、続きの予感を感じさせる締めでもあるような。
肝心の歌詞は、このメロディーラインに乗っているが故に綺麗な部分ばかりが目にいってしまうようで、どことなく後ろ向きであったりする。
 もしこれが「バラード」を目的に作られなかったら、面白い楽曲になっていたんじゃないかな?と、所々に“気になるフレーズ”が鏤められている。

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インタビューには全く応じていない桜井さんですが、唯一フリーライターの森田恭子氏が自費で出版しているLucky Raccoon 40で、アルバムについての心情を語っています。
「あまり説明したくない」という桜井さん自身の軸はブレていませんが、それでも、「あの曲がこのアルバムでは好き」「この曲は〜ぐらいにできた」など、楽曲の背景がちょっとでも見えたりします。
そして、アルバムタイトルの由来も!
是非、気になった方は、以下の森田恭子氏のHPから購入するのをおすすめします(自費出版なので、アマゾンや店頭では扱っていません)。
このLucky Raccoonは森田恭子さんの音楽への愛がとても詰まった雑誌なので、バックナンバーもおすすめです!

LuckyRaccoon 40