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問題作にして最高傑作 / Album:Q(Mr.Children)全曲レビュー

 問題作にして最高傑作。

 そんなコピーが良く似合うアルバムが「Q」であると個人的には思っている。
 とにかく世界観がない。ない、というのもおかしな表現だけれど次作「IT’S A WONDERFUL WORLD」は妖艶な雰囲気を放ちつつ、暗がりと光を垣間見せたアルバムであり、前作「DISCOVERY」は鬱屈としたムードを堅く渋いアレンジによって表現したアルバムであったと思う。しかし、本作「Q」は妖艶な雰囲気も醸しつつ堅いギターサウンド、太いベースライン、重いドラムによって展開される聴くたびに様々な音色をリスナーに見せつける問題作だ。
 巷では“決して一般受けするアルバムではない”と言われている通り、とっつきにくい楽曲が多い。メロディーもキャッチーでなければ、展開も重苦しい扉を無理やり開く(というかぶち壊す)感じで、その傲慢さ、大胆さに息苦しくなってしまう人もいるだろう。
 しかし、言い換えれば、その渋さと力強さに魅了されてしまえば、しばらく飽きない。人間としての生き抜いていく覚悟と、疲弊し腐敗した商業主義に対するアンチテーゼすら歌う気のないアンチテーゼ、バンドとしての快楽と娯楽。
 その気の抜けた、けれど覚悟を秘めたサウンドと歌詞に僕らは「あ、もっと気を抜いて人生乗り越えていけばいいのか。よし、やるか」とグッと背中を押される。

[MR.CHILDREN:Q]

Q

Q

  • アーティスト:Mr.Children
  • 発売日: 2000/09/27
  • メディア: CD

M-1.CENTER OF UNIVERSE

 ライブでは演奏される頻度の多い部類の楽曲。そのタイトルが示す通り「世界の中心とはいったいなにか?」という事を、その世界の周りを眺めながら歌っている。
 このCENTER OF UNIVERSEのイントロがまさに「Q」を象徴していて、宇宙的な雰囲気を醸しながらもMr.ChildrenMr.Childrenのブランドを剥いだ、倦怠感と狂気を感じさせる。
1番が終わると、楽曲は急展開を始める。テンポが倍になり、その鼓動よりも早いスピード感にメロディーが乗る。一音に二音、突き詰めた譜割りで僕らの鼓膜に迫り込んでくる。
 ハイテンポなBPMを感じながら、僕らは想像する。社会の急速な発展を。そして、そこに追いつけない僕らの精神を、肉体を。疲れ切ってしまった僕らの身体を、一体何が癒すのか。
 心から思っているのか、適当に言っているのか、桜井氏はCENTER OF UNIVERSEで「愛」こそが僕らを癒す休息なのだと歌う。しかし、その歌声はどこか面倒くさそうに、気怠そうに、けれども、その裏には芯の太い覚悟があるように聴こえる。

僕こそが中心です(CENTER OF UNIVERSE/Mr.Children)

M-2.その向こうへ行こう

 僕がMr.Childrenにハマって、レンタルショップへ行って、適当にMr.Childrenと名のつくCDを借りて、はじめて聴いたのが、「Q」だったように記憶している。
 そして、ミスチルの有名な曲もなにも知らない僕が、はじめに目についた楽曲が「その向こうへ行こう」だった。なんといっても歌詞が面白いな、と思った。
 当時中学生だった僕はCENTER OF UNIVERSEをすっ飛ばして、「その向こうへ行こう」を再生させた。
 その時は、まるでゲームの世界を歌っているように感じた。“クリアしよう”というフレーズがゲームを想起させたのだろう。しかし、そのイントロの奇妙さ、どこかパッとしないゲーム性を感じさせるエフェクトのかかったエレキのストローク、それぞれが徐々に、ノロノロと動き出す感じが、単純に面白い、と当時は感じた。まあ、本当はとある漫画がモチーフになっているようだけれど。
 この楽曲は、とにかく終始、楽曲の主人公を包む気怠さと、でもどこか自信に満ちた表情を窺わせる歌詞の世界観、しかし最終的には「I'll go to home」と謳う弱み、そこが魅力であり、聴くと「あ、前に進まなくちゃな。進んでやろうじゃないか」と強気にさせる一曲。

M-3.NOT FOUND

 名曲中の名曲。
 こんなこと何度も言うのもしつこいのだけれど、「Q」はとにかく聴く人間、歌っている世界観もそうなのだけれど、“心の中にある負のエネルギー”をすべて“プラス”に変換する覚悟、強さ、決意、自信、体力がほとんどの楽曲に秘められている。
 NOT FOUNDも例外なくそうで、“過去の自分に向けた/この後悔と憎悪”とシャウトしながら歌いつつも、その掻き鳴らすエレキギターの向こう側には確実に希望を求めていて、どんな壁もぶち壊す、“次の扉をノック(終わりなき旅)”ではなくぶち壊す勢いでバンドが前進してくる。ベースはここぞとばかりにルート弾きで、そして8分の12拍子のドラミングで攻め立てる。
 もうこの楽曲、この世界観はNOT FOUNDが至高であり、最高傑作だなと思っているから、こういう曲をまた作って欲しいとは思えないし、正直、どんなアーティストも、Mr.ChildrenでさえもNOT FOUNDは越えられないのではないか、と思っている。
自分自身の内側にある、憎しみや苦しみと向き合いながら、苦悩を伴いがら、次へのステップを地団駄を踏みながら切り開こうとするロック。
 パッと思ったのが、Tomorrow never knowsと共通する部分が少しあるかも。

あと どのくらいすれば忘れられんのだろう?/過去の自分に向けた この後悔と憎悪(NOT FOUND/Mr.Children)

M-4.スロースターター

 歪んだエレキギターのリフが格好いい。このループだけをずっと聴いてたっていいぐらいだ。それ以上にJENのドラムも素晴らしい。「隙を見て奪い取る」と歌い切った後からの爆発するバンドのアンサンブル、それを引き連れるナカケーとJEN。「スロースターター/今/発車」とシャウトする決意の先に桜井氏はなにを見据えていたのだろうか。
 やっぱりこの楽曲も、聴くと元気をもらえるし、学生の時は試験前とか、乗り越えなきゃいけないものの前とか、聴いていた。強気になれる。

みじめそうに見えても 同情なんていらない(スロースターター/Mr.Children)

M-5.surrender

 マイナー調のアコースティックギターのギターから始まるダークな一曲。まあ、当たり前なんだけどMr.Childrenの楽曲でマイナー調から始まって、なおかつキーがEmなんて場合には、確実に世界観も暗く染まっている。ミュートをかけつつ弾かれるアコースティックギターから、諦めを交えたような歌声が聴こえてくる。
 簡単に解釈すれば、それは男女の別れの歌。誰かの存在が、既にもう、そのお互いの軸となって、ピースとなってしまっていて、その存在を失うことで、もう失った人間そのものも深い闇に落ちてしまう、と言った、きっと誰もが共感できるであろう失意の叫び。
 Split the differenceでもアレンジを交えて披露され、最後には桜井氏のシャウトも新たに追加された。この楽曲のおすすめ、というか魅力はやはり間奏後のCメロで“暗闇を照らしてよ/あの頃のように/君無しじゃ不安定なんだよ”と主人公が悲しみを不安定なメロディーで、しかし不安定ながらも気持ち良い、まるでバラードのような旋律で聴く人間の心を揺らす。その後のシャウトが、失った人間の哀しみを表現していて、なお沁みる一曲。

M-6.つよがり

 ライブでも人気のあるバラード。The pillowsとの対バンツアーで披露されたり、SUPERMARKET FANTASYでの“おすすめの一曲”として披露されたりなど、Mr.Childrenというバンドを代表する一曲と言っても過言ではないかもしれない。ちなみに、その後のシングルでthe pillowsは「つよがり」をカバーしている。
 つよがり、という楽曲は“相手を想う気持ち”がずっと綴られており、「君が好き」という楽曲で“(君も)誰にも踏み込まれたくない領域を隠し持っている”と歌っていたように、つよがりでも“相手の背後に潜む踏み込めない領域”を思いながら気遣いながら言葉は綴られる。
重いアコースティックピアノから始まるイントロ、そして主人公の心の覚悟を示すかのような堅いバンドアレンジ。ファルセットを見事につかいこなしCメロ。
 必要以上に楽器を増やしたりしない、引き算の結果完成した楽曲のようにも感じる。

M-7.十二月のセントラルパークブルース

 現在進行形のミスチルの実験的楽曲と言えば必ずデジタルなサウンドやAメロ、Bメロの構成が素直でなかったり、などがぱっと浮かぶのだが、そういう工夫はなくも、「Q」というアルバムにおいては実験的な楽曲のひとつであったかと思う。
 エレキギターの癖のあるリフ、遊びのあるベース、跳ねたドラムのリズム、この演奏者、バンドメンバーが醸す雰囲気は次曲の「友とコーヒーと嘘と胃袋」でも表現されているのだが、とにかくMr.Childrenというバンドとして商業主義という名の舞台にへばり付いた退屈を打ち破る娯楽、快楽に近い様な空気を感じる。
 こういう癖のある楽曲が「Q」にはあって、というかほとんどそうなんだけれど、メロディーとかが頭の中に残って病み付きになってしまう。

M-8.友とコーヒーと嘘と胃袋

 これは是非、「Q」期のライブバージョンを聴いてもらうことをおすすめする。あのライブバージョンこそが、この楽曲の伝えたかった世界観であり、魅力であると個人的には思っている。
 世の中にあるどんな出来事も、理不尽も、不条理も、葛藤も、すべて僕らは消化して筋肉に、強靭な精神に変えてしまえばいい。そんな強さを僕らは持っている。
 コード進行、転調の仕方もとても魅力的で、惹きこまれずにはいられない展開だ。たぶん、自分自身で演奏しても楽しいだろう。
メロディーの運び、譜割りも気持ちがよく、あぁ、もっとこんな風に軽いステップで乗り越えて行けたらな、と感じさせられる。それは歌詞のみだけではなく、楽器のそれぞれの音からも感じられる尊さである。

罰当たりと言われてもクジラやイルカの肉も食べる/悲しみも 憎しみも 愛しさも/優しさも いやらしさも/食べるよ 食べるよ 食べるよ(友とコーヒーと嘘と胃袋/Mr.Children)

M-9.ロードムービー

 これまたファンの人気が高い楽曲。特に取り上げられるのが「街灯が二秒後の未来を照らし」というフレーズだ。情景描写が繊細で、Mr.Childrenの楽曲の中でも、ここまで鮮やかに情景が綴られている楽曲も多くないかな、と思う。例えば「水上バス」なんかも、歌詞に関しては、この類に含まれるであろう。
 基本的にAメロ、Bメロという構成でサビや大サビといった旨みの部分がこの楽曲にはない。それぐらいに淡々と、まるでただひたすら続く道でオートバイを走らせるように、味気のないモノクロのロードムービーの様に曲は進んでいく。答えもなにもないまま、僕らは回想を重ねて、AメロBメロを繰り返していく。
 この“渋い雰囲気”と“鮮やかな情景描写”、そしてその中でもバンドサウンドを忘れないアレンジがファンからの支持を得ている理由のひとつとも言えるかもしれない。ちなみに渋さで言えば、「Heavenly Kiss」なんかも近いだろう。

M-10. Everything is made from a dream

 軽快なメロディーで歌われつつも、歌っている内容は2011年以降を日本で生きる僕らにとって最もリアルなテーマ。すべての物事は“誰かの小さな夢”から膨らんでいくけれど、それが必ずしも多くの人の希望に繋がるのだろうか?そんな疑問を抱きながらも、次々と打ち上げられていく夢、夢、夢。
 マーチに乗せて、どこまでも続いていく未来への絶えない人類の欲望は桜井氏による皮肉にも似た軽快さで歌われる。
Ap bank fesなどで披露されることもあり、メッセージ性も全面的に出ている楽曲であり、Mr.Childrenがいまもなおポップザウルスとして君臨し続けている理由がこの辺りにあるのかな、とも思う。
 間奏ではメンバーそれぞれの話し声がちょろちょろっと含まれている(ほかの声も関係者だったっけかな・・・?)。

M-11.口笛

 とにかく素直なメロディーが描く旋律が綺麗なバラード。ライブ「Home in the field」でファンによる合唱が行われたが、その素直な旋律であるが故に合唱曲としてもとても栄える。アコースティックギター一本で弾き語っても、ピアノ一本で弾き語っても、バンドでアレンジしても、どんな風に調理しても素材が素晴らしいので、きっとその魅力は消えることなく、アレンジに応じて多面な魅力を放つだろう。
 Cメロで綴られる子供の頃の回想と、目の前に佇む幸福の対比が素晴らしい。この「Q」というアルバムにおいて、「口笛」というバラードはリスナーの心にどのような影響をもたらし、どのような意味を持つのだろうか。

M-12.Hallelujah

 名曲。どこか幻影的で浮遊感のあるエレキギターアルペジオから始まり、最後の大サビではバンド感満載の、迫りくるアンサンブル。イントロからは想像もつかないような展開の仕方で、そして刺激的で、Mr.Childrenとしてのなのか、桜井和寿としなのか、覚悟が滲み出た歌詞がグッとくる。「Q」というアルバムを象徴する楽曲と言ってもいいだろう。
 その時々に応じて、ライブでは化け、「CONCERT TOUR POP SAURUS 2001」では恐竜を絶滅させたと言われている、本ツアーのテーマのひとつである「花」へと変貌し、まるで朽ちていくものへのレクエイムの様にも聴こえ、「MR.CHILDREN DOME TOUR 2005 "I ♥ U"」ではいまもなお絶えない紛争や生命の誕生をハイスピードで映し出したスクリーンと共に「and I love you」へと変貌した。
 とにかく莫大なエネルギーを秘めた楽曲であると同時に、逃げ道のないラブソング。

ある時は僕の存在が 君の無限大の可能性を奪うだろう(Hallelujah/Mr.Children)

M-13.安らげる場所

 いつのアルバム発売時だったか分からないが、「Q」よりずっと後、Mr.Childrenがプロモーションでラジオに出演した際に、その時のDJが「まずは一曲目に、新しいアルバムからではなくてですね、私がMr.Childrenの中で最も好きな楽曲を聴いて頂きたいと思います」という前フリでこの「安らげる場所」がかかった。
 「あ、この人、生粋のMr.Childrenファンだな」と思った。別ににわかだってなんだっていいんだけれど、Mr.Childrenで「ファスナー」が好きとか、「つよがり」が好きだとか言われても、“アルバム曲をわざわざ好きって言うのはミスチル相当好きなんだな”とは思わない。だって、アルバム曲の中でもとっても有名だ。Mr.Childrenはアルバム曲とシングル曲でクオリティに大きく差はないし。
 けれど、「安らげる場所」に関しては別物である。なんてってたって(なんてったって?)、とんでもなくマイナーなラブソングだからだ!これこそ隠れた名曲、というか、内容的にも桜井氏はライブではきっと歌いたくないだろうな〜と感じるぐらいの、そういう愛の歌である。それにMr.Childrenで最も好きな曲と言っておきながら、皇帝(田原健一)とナカケー(中川敬輔)とJEN(鈴木英哉)が出てこないなんて!それでも、この曲が好きっていうのは、もうその背景に存在するMr.Childrenへの強かな愛情が感じ取れる。
 はっきり言うと、Mr.Childrenらしくない、けれど確実に桜井氏にしか書けない、ピアノとストリングスのみでしっとりと仕上げた、誰かから誰かへ小さく捧げる、灯台よりも小さな明かりを見つめながら歌うラブソング。

人はなぜ幸せを 闇雲に求めてしまうんだろう?(安らげる場所/Mr.Children)