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おやすみプンプン11巻/浅野いにお[ネタバレ]

今回も通常版を買ったにわかがレビュー。
浅野いにおさんのtwitterによると、今回カバーを取った表紙部分はフルカラーになっているそうな。
加筆修正されている個所も多く、伏線も多く、すごく凝らされた漫画だなあ、と。これがどれくらいオチに繋がっていくのかは分からないけれど。

絶望で切り開ける。

おやすみプンプン 11 (ヤングサンデーコミックス)

おやすみプンプン 11 (ヤングサンデーコミックス)

▼雄一おじさんと、プンプンの比較
プンプンがとうとう一線を越えてしまった、というのが11巻の感想(スピリッツも読んでいたけれど)。

途中、雄一おじさんが登場し自身の過去について一人語りをする。どのような選択にも違いはないが、どのような選択も全く違う人生が待っていて、選択しなかった一方を夢想する、と。しかし、どのような選択をするとしても生き続けなければならない、というようなことを。

個人的には違うと思うが物語上は、雄一おじさんの選択(陶芸教室の娘、緑さん)と、プンプンの選択(田中愛子と南条幸)が比較されているのだと思う。

雄一おじさんは安息の未来へ、プンプンは迷走する未来へ。それは以前書いたような、プンプンにとって田中愛子は代替不可能なもので言い換えれば、依存し合うしかない関係、一方で南条幸は代替可能な、そこらあたりに落ちている幸せと同じ種類のものだった、ということ。
そして、プンプンは自分の中に欠如した空虚を埋める為の、代替不可能な田中愛子を選択したのではないかと。

以前書いたけれど雄一おじさんは「罪の意識に縋ること」で生きていた。
一方でプンプンは「愛子ちゃんという錯覚に縋ること」で生きてきた。
雄一おじさんは、それらを忘却することで平穏?とも呼べる生活を手にしたようにも見えるわけだけれど、プンプンは尚もその「愛子ちゃんという存在」を強く濃く染めてしまった。もう、それに縋ることでしか生きていけないだろうな、っていう。

なんとなく、拷問のような気もするよね。
子供の頃のプンプンが想像していたものとは全く違うであろう形での、ふたりの関係が。

▼絶望が切り開いた未来、生きていく目的
とかなんとか言っているけれど、この11巻で感じられるのは、プンプンも、田中愛子も「普通の人間」である、ということ。
田中愛子は、もっと卑劣で、計算高くて、プンプンが田中愛子の母親を殺害したことすら、田中愛子がプンプンを誘導させて、計画的に殺させるような女だと思っていたけれど、実際は違った(と思う)。
事実、田中愛子は精神的に不安定になっているようだし、一刻もはやく病院に行くべきと思われるほどの傷を負っている様だし、想定外の殺害だったに違いない。

一方でプンプンは、と言えば「もう田中愛子を自分自身にとって代替不可能なものにするしかない」と潜在的にずっと思っていたのだと思う。
つまり、「相互依存」を望んでいたのだと。
殺害すら、潜在的なプンプンが起こした行動であるとすら思う。

プンプンは、子供の頃と比べ目標も夢もない人間になってしまった。
さいころの夢や希望は、大人になるにつれ、廃れて、くだらない日常と共に腐敗して、怠惰な生活を送るようになった。
その中で、田中愛子と出会ったけれど、なにかが違った。

明らかに二人に、未来はないことがなんとなくプンプンは感じ取っていた。

人を殺す、ということは「犯罪者としての償い」を求められる。
そして「共犯」という「秘密」は「田中愛子とプンプンを結ぶ“つがい”」になる。
つまり、「これから二人で生きていかなければならない“強制的な目標”を田中愛子とプンプン自身に課す為に選んだ殺害」だったのではないかと。

それまでの夢も希望もなかった未来に、絶望を付け足すことで、切り開けた未来。
ずっと田中愛子の手中にあったはずプンプンの運命が、プンプンの指導下になった(ようにも思えるけれど、結局、田中愛子にプンプンが動かされているとも言えるかも)。
話の途中でも出てくるけれど、ふたりとも「普通の人間」である限り、人間的にも精神的にも耐えられなくなってくるんじゃないかなあ。

まあ、これ全部妄想だけど。

▼ペガサスたちが目指すもの、南条幸たちが示すもの。
ペガサスは全く意味が分からないので保留するしかない。
彼らにとって「黒点」とはなんなのか。
そして、サングラスをかけた数学教師はペガサスや関くんを何に利用しようとしているのか。

なにもない幸福を求めている人間たちと、そうでない幸福を求めている人間たち。
犠牲のない世界と、犠牲のもとに成り立つ世界。
そういう胡散臭い臭いが、11巻にはしている。

その中立を保っているのが、なんとなく南条幸まわり。
南条幸に関しては、この先のプンプンの心情の動きに大きく関わってくると思うけれど、もう人を殺してしまったことに変わりはないので、自首するか、逃亡するか、しか物語的にも選択肢はない。
その過程で、作者、浅野いにおがなにを伝えたいか、伝えたくないか、ではないかと思う。

物語の終着点が気になりますね。
最後には希望を見出したいとか、そういうんじゃない気もするけれど。

みんな、最後は鹿児島に集結するのかな(妄想)。

▼11巻まとめ
10巻が登場人物それぞれの立ち位置を明確にしつつ、心情が徐々に漏れ出した巻であったのに対し、11巻はプンプンや愛子ちゃんの不本意でありつつ(多分)本音の感情が暴露されながら物語が進んでいく巻だったと思う。
宗教団体の言っていることは相変わらずよくわからない。
10年なにを頑張ってたんだよ・・・。

でも、なんとなく思うのは、
「君と出会いさえしなければ」と誰もの立場に立って思える漫画だな、ということ。

特別優れた能力や才能を持っているわけではない登場人物たちが、なにかをきっかけに人生の方向を決められてしまう、というか。
あるいは磁石のような関係が完成してしまうような。

だって、プンプンなんて、あの瞬間、南条幸と幸せになれたはずで。
そうしなかったのは理由もないけど、どうしようもなかったから、愛子ちゃんの方向へ進んでしまった。
平穏な暮らしなら、南条幸との場所にあったはずなのに。

そういう意味で、どんなに小さな日常でも、しっかりと自分の心にケリを付けようともがいている人たちの様なんだよね。そりゃあ、そうしないと漫画にはならないけどさ。
ホントに生命力のない人間っていうのは、100頁同じ描写が続くだけ。
そんな人はいない、ということを書きたいのか。どうなのか。

そんな感想。

▼余談―平穏な暮らしを手に入れたい
愛子ちゃんの異常なまでの母親に対する憎悪も、一種の「もしも出会わなければ」になるのだろう。
手にしたかった未来の彼是が窮屈な親の保護下から出られないが故になくなってしまった。
愛子ちゃんは大人になったプンプンと出会うまでの期間、なにかに助けを求めていたのか、それともただただ流されるがまま、なすがままだったのか。。。
その辺りの過去は明らかになっていないから、想像するしかないのだけれど。

けれど。
途中プンプンは、その母親を殺害することで「君を救った」と愛子ちゃんに言うけれど、多分もう愛子ちゃんもプンプンと同様にもとには戻れない様な気さえもする。
どうだろう。それとも愛子ちゃんは、まだ引き返せるのだろうか。そもそもそれを望んでいるかも分からないけれど。

平穏な暮らしへと引き返せるかもしれない人間が、どれくらいいるのか、かも。

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