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おやすみプンプン13巻/浅野いにお[感想・レビュー][ネタバレ]

おやすみプンプン、最終巻。

おやすみプンプン 1 (ヤングサンデーコミックス)

おやすみプンプン 1 (ヤングサンデーコミックス)

下書きも溜まってたのだけれど、どうにもこうにも、腑に落ちず。
なんかとってつけたような感想しかかけてなかったので、一か月寝かせ、結果。

なにも変わらない。

けど、新鮮な気持ちで書いてみようと思う。(ちなみに推敲してません)

あ、個人的にはいちばん最初に書いた、この記事がうまく言い表してるかなあ、と思った。
おやすみプンプンとノルウェイの森と人間失格 - 今日もご無事で。


絶望の底から希望を眺める人と、
希望の舞台から絶望を気取る人。

▼下書きから、一か月経っての感想まで
とにかくおやすみプンプン、完結しました。
スピリッツで追いながら読んでいて、最終話を読み終わった時は腑に落ちなくて、
コミックになって読み返してみると「ああ、なんだかんだ言ってベタな所に落ち着いたんだな」と思った。

「読者は、この先ついてこれなくなると思う」とSWITCHのインタビューで話していたりしたので、
とんでもない展開が待っているのかと思いきや(確かに待っていたけど)、オチそのものは青春漫画にある様な濁りのないものだった。

若干の批判(と皮肉)も含んで言うけれど、こういう話のオチを予想していた人は少なかったんじゃないだろうか。

▼結果的に、誰も幸せにならなかった。(読み終わって直後の感想)
想定外のオチが読者の前に待っていて、それが衝撃的なものではなく、非日常な展開をバンバン見せられて、突如日常に落ち着いてしまうというタイムスリップ的な流れを見せられて、どうしようもない時、感想の述べようがないと思った。
少なくとも、最後の晩餐を模した描写があったり、小学生篇で出てきた謎の男だったり、南条の天の川の絵だったり、洒落た伏線がいくつもあったにも関わらず、それらは伏線でもなんでもなかったのかな?と思う外ない。
これ、実は夢オチだったりしているのだろうか?(語られていないだけで、そういう風に導けたり?)

とにかく、読み終わって言いたいのは「誰も幸せにならなかった」ということ。

この漫画の主人公「プンプン」は勿論のこと、「愛子ちゃん」も「南条」も、幸せにはならないだろうなと(南条幸にとっての幸せがなにかはちょっと考えようだけど)。

おやすみプンプンを読み始めた当初に「人間失格」とか、ちょっと違うけど「ノルウェイの森」とか、あの「女性に惑わされる感じ」がとても似ているな、と感じた。
この作品を辛うじて救っているのは、そういう“過去の名作”のおかげであって、この作品単体でなにかが成立しているかっていうと、ぶっちゃけよくわからない。
ただ、「ちょっとした行き違い」で「大きく狂ってしまった」人生を誰もが歩んでいて、その中でもプンプンは「田中愛子」という、実は田中愛子こそ、どこにでもいるような、普通からちょっとだけ外れた女の子なんだけど、プンプンが何故か大きく捻じ曲げてしまった。

うーん。

やはり「人間失格」とかと比べて圧倒的に足りないのは「共感できる範囲の少なさ」だろうか。
プンプンが腐っていく過程までは、例えば高校生篇なんかまでは、おそらく皆がところどころで「あるある」を体感しながら読み進められていたのと思うのだけれど、フリーターになってから、あまりにも無気力なプンプン(例えば、携帯を持つのを頑なに拒否したり)、“ちょっと偏屈な人間”としてのキャラクターが固まり始めてから、共感しにくくなっていった気がするよね。
最終的には、殺人を犯してからの逃避行。あそこに限っては、想像するにも、「自分だったらそんな行動とるかな?」って思考の連続だし、浅野いにお氏自身も想像でしか描けてないわけだから、「精神状態が崩壊するっておそらくこんな感じだろう」の延長にあるよね、きっと。
どれぐらい取材したのかわからないし、もしかしたらプンプンたちの逃避行はそこそこリアリティのあるものなのかもしれないけれど、「その逃避行が人間をダメにしていく」ということそのものがあまり僕には受け入れ難かった。

その途中途中で出てくるペガサスの存在も、最後まで全く分からなかった。
参加していた人間たちの背景が語られない、しかし、清水がそこに信者として加わったということは、清水が「信者の投影」ということになるよね。作品として考えると。
そこに集まっていた人たちは、「埋められない、なにかの空白を持った人たち」、推測だけど例えば一歩違ったらプンプン自身も、ここにいたかもしれない、ということになるのかな?
つまり、ものすごく近い場所に、プンプンとペガサスはいて、仮にどちらに転んで行ったとしても、プンプンは幸せになることはなかったんじゃないか?ということだろうか。
そうすると、数学教師なんだったの、ってなる。彼は、おそらくこのペガサス物語の中では“裏切り者”に位置するわけだけど、彼自身の背景っていうのが、これまたあまり多く語られていないのよね。
ペガサスをここまで導いたのは、数学教師に違いないのだけれど。。。

っていうか、結果、数学教師が逮捕されないでスマホいじっているシーンがあるのもよくわからない。
なんかこう、分からない所で時系列バラバラのパラレル設定にでもなってるわけ?



▼一か月経っての感想
あとはなんだろうな、はっきり言ってプンプンが幸せになっているのだとしたら愛子ちゃん、心底納得いかないだろうな。
自分はあなたを想って死んだにも関わらず、お前は勝手に幸せになっているのか?と。

ううん、やっぱりどうしても無理矢理終わらせたようにしか感じないよ、この漫画は。
オチは最初から決まっていたのだと思う。
ありふれた言葉で言えば、
人生はありふれたもので溢れていて、なにをきっかけにどうなるかさえ分からない。
けれど、誰もがいつでも後戻りできる場所にいて、「あの時こうしていれば」の積み重ねなのだと。
そして、必ずそれを見守る誰かがいて、その誰かも、同じように共通項を持っているよ、と。

でもやっぱりね、仮にそういことを伝えたくてね、まあそうじゃないとしても、オチが決まっていたとしてもね。
その過程があまりにも雑だと思うのよね。

まあ、愛子ちゃんの夢だったんだよ、これは。
カバーを外した時の絵は、そういうことなんだろう。

愛子ちゃんを幸せにするための物語。
でも、プンプンは失敗した。
プンプンは、愛子ちゃんじゃなく、自分に振り回され過ぎて失敗した。
愛子ちゃんはいつだって絶望の底から希望を見てたのに、
プンプンはいつも希望の舞台から、絶望に手を伸ばしていた。

その相違が、痛々しい結果を生んでしまったのだと思う。

南条幸は、プンプンにとっての矯正装置なんだろうな。
無理矢理に束縛することで、希望のある方向を向かせる。
納得のいくように解釈するなら、最後のシーンで流すプンプンの涙はそういうことになるのだろう。

愛子ちゃんの望んでいたことを、最後の最後で理解したというか。
愛子ちゃん自身を陥れていたのは、プンプン自身だったというか。
本当に最低なヤツだよ、プンプンは。

雄一おじさんが、陶芸教室の一件で、プンプンと似た境遇に陥りかけた時、なんとか逃げ切った事例と、
プンプンと愛子ちゃんの関係が同じだったかと言えば、そうかもしれない。

けど、少なくとも愛子ちゃんは普通の女の子だった。
プンプンはそこから手を引いて逃げ出すことはできたはずだった。

いつでも希望を見ていた愛子ちゃんと、
そこに絶望ばかりを見出していたプンプン。

まあ、そういうことだろうな。

それに加えてペガサスは、希望という名の幻想を錯覚させるペテン師。
数学教師は、介護する母がいるからなのか、そこに罪悪感を抱いたのかな。
だから、その幻想その物すべてを破壊しようと思った。

普通に生きている人と、
必死に生きようとしている人。

その中で、ハルミンは、交通事故に合わせてしまった過去の彼女に対する罪悪感を拭うことができないまま、
生きてしまっている、のかな?

プンプンと違って、世界となんとか均衡を合せようとしている。
人生なんて楽勝過ぎる、っていうのはある意味、浅野いにおから読者への皮肉めいたメッセージでもあり、
本当に大好きだった恋人を失った自分を無理やり納得させるための、苦し紛れの言葉なんだろうな。

本当は、後悔で一杯なのかもしれない。

プンプンにはそれがないのに。
あーやっぱり最低だなープンプンって。

まあ、読者が思うのは、プンプンは散々内面の描写があって
「コイツ、とんでもなく煮え切れないヤツだな」と、イライラを隠せない描写も多々あったと思う。

でも、幸せになって欲しかったよね、愛子ちゃんには。
あの小学校の頃の約束が、そのまま実現すればよかったけど、人生そう上手くはいかないんだね。
環境とか、自分じゃないなにかがコントロールしているんだね。そういうことを伝える描写が、いくつも、この漫画にはありました。

登場人物が、そのように語っておりました。
でも責任がどこにあるとか誰も言ったりはしなかった。

希望を見出そうとする人、
どうしても絶望に拘ろうとする人。

それが交差する漫画だった。(綺麗にまとめれば)

145話〜146話以降って、もしかしてプンプンが殺人を犯していない、
南条幸と幸せに生きていたら、という場合のパラレルワールドなのでは?と何度もそのヒントを探してしまう。

おわり。

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