今日もご無事で。

今日も無事なら明日も無事でいて。そんなくだらない話。

Album:822/森山直太朗[感想]

 いつの頃からか、季節のはじまりをあまり意識しなくなった。気づいたら夏で、もう終わろうとしている。風鈴の音も、蝉の鳴き声も、あまり多く聞いた記憶がない。海には行ったけど、プールには行っていない。それでも確かに日々は続いていて、「平成最後の夏」なんて言葉を目にしたりすると、時が止まらずに動きながら、着実になにかを積み上げてきたのを知らされる。平成最後の夏の終わりは、どんな終わり方になるのかな。

 そんな話はどうでもよくて、森山直太朗の話がしたい。とか言いながら、導入は星野源についてなんですけど、星野源の『ドラえもん』がリリースされたとき、世間(特に音楽関係の方々)は、「『ドラえもん』というタイトルでリリースした覚悟(そして、それが叶ったこと)がすごい」と騒がれていたような気がする。個人的には、「そうかな〜、ドラえもんは、ドラえもんだしな。」と思った。おそらくミュージシャンの人たちからしたら、そのタイトルでリリースすることのプレッシャーとかはとんでもなく計り知れないものなのだとは想像できる。けど、僕はそれじゃないしな、純粋に曲を聴きまして、まあ、名曲であった。そりゃこんな曲作っちゃったらタイトルは『ドラえもん』以外に他ないよ。他、何があるのよ。

 なにかの雑誌で「『恋』がヒットして国民的スターとも一部で呼ばれ始めているような、このタイミングで、リリースするのが尚すごい」と書かれていた。まあ、すごいですよね。Mr.Childrenが『Innocent world』リリースして、そんでもって『Tomorrow never knows』リリースして、「まだまだいくぜ!」って『名もなき詩』リリースしちゃうぐらい勢いがあるよ。時代が時代ならミスチルですよ。

 で、なにが言いたいかと言いますと、その「とんでもねえことやっちまったな」感を個人的にすごく感じたのが、この森山直太朗のアルバム『822』に収録されている『群青』という楽曲なんですよ。

 これ、とんでもない。どこからこの衝撃を伝えたらいいのかわからないけど、いちばん大きなところから書きますと、やっぱりサビで“hey siri”と呼びかけ続けるところです。

 時事的と言ったらそれまでかもしれないけれど、森山直太朗の『群青』は冗談一切抜きで、勝負を仕掛けてきているところがとんでもなくすごい。例えば、“hey siri”をAメロや、サビのワンフレーズで使ったバンドはいままでにもいたかもしれないけれど、こんなにサビで連発するアーティストがいままでいただろうか。なぜ、それを多くのアーティストがして来なかったかと言うと、それは勿論前述した“時事性”を危惧してのことだと思うし、もっと言えば“hey siri”って“OK Google”と同様に想像以上に世の中ではネタ的に扱われ始めてしまったからだと推測するんですよね。「“hey siri”って携帯に呼びかけるのダサい笑」みたいな風潮は確かにあったと思うし、スマートスピーカーだっていまでこそ普及し始めている気もするけれど、出始めは「呼びかけるのちょっと抵抗……」みたいなイメージはあった。

 その“hey siri”をサビに持ってきて尚、遊びになってないんです、この『群青』は。正直、いままでの森山直太朗のこの手の楽曲って遊びと哲学のバランスがいい感じに不気味な具合で、人によっては「なにずっとふざけてんの」って解釈されることも少なくなかったと思う。『どこもかしこも駐車場』とか、個人的にはとんでもなく名曲なんだけれど、人によっては「イライラする」と感想を聞いたこともあるぐらいだった。しかしこの『群青』は“hey siri”のインパクトを持ってしても「ふざけんな」と思う人はいないだろう。それは歌詞を読むだけでも伝わると思っている。

Hey Siri 僕の悩みを聞いてくれよ/Hey Siri 誰にも言えないことなんだ/Hey Siri 生まれて生きて死ぬだなんて/Hey Siri ところで君はどんな気分だ(群青/森山直太朗)

 これが1番のサビなんですけれど、それを踏まえた2番がとんでもなくすごい。(とんでもなくすごいばっかり言ってるな)

Hey Siri 明日の天気はいかがです/Hey Siri どっちのシャツが似合ってる/Hey Siri 元気になれる食べ物なあに/Hey Siri この空の色教えてくれよ(群青/森山直太朗)

 3回目の“hey siri”までと、4回目になっての哲学的な問い。それをSiriにしているという、リスナーへの問いかけ。そう、これはリスナーへ問いかけているのではない。Siriに問いかけているのだ。Siriはこの問いかけに答えられるのか。Siriはこの問いかけに「すみません、わかりません」と答えるのか。僕らはどうなんだ。この問いかけに、僕らは答えられるのか。この空の色を僕らは答えられるのか。Siriは答えられなくて、僕らは答えられるのは何故なんだ。何故、僕らは答えられるのか。それとも、ほんとうにこの問いかけに答えられているのか。この問いかけに答えられないのならば、その正体はなんなんだ。

 ちょっと書いてて感情的になってしまいそうなぐらい(なっているか)、名曲です。この“hey siri”というフレーズを繰り返して尚、遊びにならずに、僕らに人生とはなにかを問いかける、たった7分の楽曲で、これからの時代と未来を問う、この楽曲が凄い。

しばらく前からあそこの壁に ビニールの傘がかかっていて/それが一体なんなのかって 言葉にしないで考えている(群青/森山直太朗)

822(通常盤)

822(通常盤)

 ところでこの『822』ってアルバム、森山直太朗史上最高傑作じゃありませんか? 正直、森山直太朗のコアなファンじゃないわけで、そう多くの楽曲を聞いているわけじゃないんですが、『群青』だけではなく、それ以外の楽曲も名曲揃いです。

 2曲目の『出世しちゃったみたいだね』もアレンジがずば抜けているし、『人間の森』や『時代は変わる』のように泣かせにかかる曲、『やがて』や『花の名前』など『群青』のように僕らが日々過ごしている中で見落としてしまいがちな問いかけを、ちゃんと言葉にして、メロディーにしてあらためて突き詰める楽曲。

 メッセージ性が強いアルバムと言ったらそうかもしれないけれど、そのメッセージの具体性がものすごく高い。『生きてることが辛いなら』や『生きる』などの楽曲でシンプルに削ぎ落とされたメッセージを発する楽曲もあったが、『822』に収録されている楽曲群は僕らの日々生きる情景を言葉で綴りながら、生活をイメージさせながら、“気づき”を与える。

 んでもってアレンジが飽きない。どの楽曲も一辺倒じゃなく、かつアコースティック主体すぎず、聞いていて楽しいし、言葉がすっと入ってくるアレンジになっている。とにかく超名曲ばかりなので、是非いろんな人に聴いてみて頂きたい……。

サクラ ヒマワリ カスミソウ/ダリア カトレア ノウゼンカズラ/どの花にも それぞれに呼び名はあるけど/サツキ アジサイ キンモクセイ/ポピー モクレン ブーゲンビリア/本当の名前を 僕は知らない(花の名前/森山直太朗)

 あ、『822(パニーニ)』って読むらしいですよ。