今日もご無事で。

今日も無事なら明日も無事でいて。そんなくだらない話。

赤い公園は天才同士の一瞬のきらめきだった。そして新体制、赤い公園のこれから。佐藤千明の脱退と、石野理子の加入。

津野米咲のソングライティング能力と、バンドとしての着実なステップアップ

 2012年にミニアルバム『透明なのか黒なのか』でメジャーデビューを果たした赤い公園
 ボーカルに佐藤千明、ベースに藤本ひかり、ドラムに歌川菜穂、そして彼女たち3人のひとつうえの先輩になる津野米咲はギターと、ほとんどの楽曲の作詞・作曲を担当した。そのソングライティングの能力はバンドがヒットするよりも前から各アーティストから高い評価を受け、ついにはSMAPにとっての50枚のシングル『Joy!!』を手がけるまでとなった。

 勿論、SMAPの楽曲を手がけたからソングライティングの能力が優れていると根拠付けられるわけではないが、わずかデビュー1年足らずで国民的アイドルの記念すべき節目のシングルを手掛けるまでに上り詰めるのは並大抵のバンドができたことではない。相当な運と努力、才能が絡み合って達成された事実であることは確かだ。

 ちなみにこの『Joy!!』は、SMAP解散時に発売されたベストアルバムのファン投票ランキング(このベストアルバムはファンのリクエスト投票で構成された)でシングル・アルバムなど400以上の候補曲のうち『らいおんハート』や『Triangle』『青いイナズマ』を差し置いて、第16位であった。


 バンド活動そのものについても1stシングルから4thシングルまでタイアップもちゃんとつき(5th,6thはタイアップなし)、オリコンの順位も順当にあげながら地道に活動を続けていた彼女たちであったが、2017年夏、ボーカルの佐藤千明が脱退するという転機が訪れた。

 原因としては正式なコメントでは「7年の活動の中で自分の手に負えない程のズレが生じていることに気付いた。そのズレが迷いとして音楽にまで介入してきたとき、赤い公園のボーカルという使命に、限界を感じた」としている。

 実際、セールスについても、4thまではタイアップやオリコンランキングも順調ではあったが、それ以降については楽曲の良さとは比例せずランキングも振るわず、2017年明けにバンドが再起を図った2ヶ月おきのシングル3連続リリースもラジオでパワープッシュなどは続いたものの大きな一手となることはなかった。


 ただ確実に知名度はあがっていたし、楽曲のバリエーションも豊かになりつつあった。まさに“これから”というタイミングであったと思う。

佐藤千明のボーカリストとしての凄み

 赤い公園のスゴさは勿論、前述したようにギターの津野米咲によるソングライティング能力の高さもあるが、それと同等かそれ以上に佐藤千明のボーカルのスゴさがある。


 彼女の歌声は、赤い公園というバンドの楽曲を再現するのに最も適した歌声であるとすら思った。大袈裟に言わなくても、ソングライティングの天才と歌の天才が出会ったと思った。

 おまけなんかじゃ全く無く、その2つの才能を支えるベース藤本ひかり、ドラム歌川菜穂、そしてギターでもある津野米咲、その秀でた能力があって赤い公園というバンドは存在していた。誰一人として欠けてしまっては、赤い公園は成立しなかった。


 僕が赤い公園に出会ったのは『KOIKI』という楽曲だった。5thシングルの『KOIKI』はタイアップこそついていないものの、いままでの赤い公園の楽曲を聞いても、この楽曲は「赤い公園としてのだせる実力のすべて」をぶつけたように感じられるパワーチューンだった。
 イントロでは肩慣らしのようにウォームアップで鳴らされるギター、ベース、ドラム。

 佐藤千明のボーカルがそこに加わり、徐々に楽曲は熱を帯びていく。サビでバンドの演奏は加速し、その加速度にあわせるようにボーカルがヒートアップする。「世界が浮き足立っても/あなたが泣いてたらしょうがない」というメッセージは、身勝手ながらも、心強い味方のような歌声がそ身勝手さも抱擁しながら聞き手の心に流れ込んでくる。


 そのパワフルな歌声には、シンプルなようでなぞりにくいメロディーを完璧に歌いこなすスゴさとは裏腹にどこか切なさも紛れ込んでいる。その歌声は、まさに心の内側の琴線にダイレクトに触れてくるような感覚を覚えた。

 そんな彼女の歌声で「こんな時笑えるジョークを/ひとつくらいはひねり出して/呆れて笑うあなたのそばで/ずっと小粋でいたいのだ」なんて歌われてしまったら、もう結婚してくださいと言わざるを得ないのだ。


脱退によって変わるもの

 その彼女が脱退する。以前、赤い公園の記事を書いた時に「メンバーの誰か一人が欠けても、赤い公園ではなくなってしまう。」と感じていたし、そうならないことを願っていた。


 チャットモンチーも大好きなバンドの一つであったが、彼女たちもドラム高橋久美子の脱退によって、大きく変わった。
 それは勿論彼女たちの意図によるものでもあったと思うし、そうせざるを得なかったこともたくさんあったと思う。『シャングリラ』はそれまで鳴らされていた『シャングリラ』ではなくなったし、新しい音と可能性を探そうと彼女たちは必死だったように感じた。

 結果、2018年をもってチャットモンチーは解散することになってしまったけれど、高橋久美子脱退以前と以後で、音楽の形は違えどチャットモンチーは鳴らされていた。

 そんなチャットモンチーの儚さを高橋久美子脱退時に味わっていたから、大好きなバンドからメンバーが抜けてしまうのは、ファンの一人としてもできるだけ避けたいと思うものであった。赤い公園にとってその転機が、こんなにもはやく訪れるものだとは思わなかった。


 参考記事①:「KOIKI/赤い公園」がとにかくすごいこと今更気付いた(感想文) - 今日もご無事で。
 参考記事②:チャットモンチー BEST~2005-2011~ (Album)レビュー - 今日もご無事で。

天才同士の一瞬のきらめき

 思うに、佐藤千明も、津野米咲も、天才でありすぎたのだと思う。


 歌う天才でありながら、あれだけの歌の才能は豊かな感受性から成り立っているはずである。それは優れたソングライティングの能力を持つ津野米咲も同じで、音楽に対する思い入れと、情熱と、そして世の中に対する感受性が豊かすぎる天才がひとつのバンドに2人存在してしまっていた。


 2つの才能が交わってうまく調和できたのが、奇跡的に7年足らずあったのだ。ただそれだけのことである。完璧な瞬間はそう長く生み出せないし、天才はピークすら感じ取ることができる。そのピークを、赤い公園でのピークを感じ取ってしまったのが、言葉にしてしまったのが佐藤千明だったのではないだろうか。


 『KOIKI』からも赤い公園の凄まじさを感じ取ったし、『純情ランドセル』というアルバムのラストを飾る『黄色い花』は、ダンサブルで明るいポップスのアレンジとメロディーにも関わらず情緒的な感性を揺さぶる、まさにサザンオールスターズMr.Childrenが築いてきた系譜でアプローチする“日本のポップスらしさ”を表現している名曲である。もはや、ガールズバンドの域にとどまらない、将来日本のバンドシーンを牽引する可能性も孕んでいたといっても過言ではない。


 裏を返せばそれだけの名曲をこれだけはやくにして生み出してしまったことに、バンドそのものがうまく調律しなかったのではないかと思う。津野米咲が表現したいことと、佐藤千明が表現したいことのズレ、それが“自分の手に負えない程のズレ”であり、その結果、2人が思い描く赤い公園像は次第に調和しなくなり、佐藤千明は“ボーカルとして”限界を感じてしまったのではないか。
 まあ、あんまり推測すんのはやめとこ。どうせ本人にしかわからんし、考えてもほとんど違うだろうし。とにかく最高だった。控えめに言って、最the高だったんですよ、赤い公園


新生、赤い公園

 そして赤い公園は、また再起しようとしている。来る2018年5月4日。VIVA LA ROCK2018 CAVE STAGEで彼女たちは新しいボーカルを加えた初ライブを行った。
 新しいボーカルが発表されることだけが事前に通達され、BiSの元リーダーであるプー・ルイなど噂は色々流れていたが当日まで明かされることはなかった。ステージがはじまってもボーカルに照明はあたらず1曲目の「風が知ってる」が淡々と演奏される。
 その歌声には、まだ拙さは拭えないながらも奇しくもどこか佐藤千明の面影を感じさせた。


 1曲目が終了すると同時に「赤い公園です!よろしくお願いします!」と、これまでもこの体制でずっと赤い公園が続いてきたかのように、バンドの挨拶がなされ『闇夜に提灯』の演奏がはじまる。演奏終了後、やっと新しいボーカルが2月に解散したアイドルグループであるアイドルネッサンス石野理子であることが本人から告げられた。
 わずか17歳での抜擢。想像できる大きなプレッシャーと緊張の中で、同等と赤い公園のいままでの楽曲を歌い上げるパフォーマンスは素晴らしかった。


 新体制としての新曲『スローモーションブルー』も、津野米咲節が炸裂しており、アップテンポで明るく切ないキラーチューンであった。
 佐藤千明の面影と闘わなくてはいけない楽曲の難しさももちろんあるが、新しく勝負していかなくてはいけない、そのものの価値が問われる新曲も今後あらゆる局面で試されることが予想される。


 正直、正直ですよ。僕はこのライブを見ていて、「うん、物足りない」と感じました。「石野理子いいじゃん!最高じゃん!」とはなりませんでした。
 でも、そうであってよかったし、そうじゃなかったら佐藤千明の7年間なんだったんだよって話です。だって17歳ですよ。高校生がバンドやっているようなもんです。
 “巧く歌いこなす人”が必要なバンドじゃないんです、赤い公園は。そしてもうおそらく、天才はそうそう巡り合わないです。
 石野理子に求められているのは、ただひとつ、“無二の個性”であると個人的には思います。
 いままでの赤い公園の楽曲を石野理子のボーカルで聞いていてやはりいかに佐藤千明のボーカリストとしての能力が高かったかを感じさせられたし、パフォーマンスのレベルも一目瞭然だった。でも、石野理子のプレッシャーだって半端ないものだったと思うし、1曲も飛ばさずに歌い終えたのは非常に凄いことであると思う。あとは、石野理子が「赤い公園を歌える人」ではなく「赤い公園の人」になるための個性が開花するのを、ひとりのファンとして待ちたい。

バンドの挑戦は続く

 ヒップホップ?ラップ?オシャレでメロウな打ち込みサウンド?そんなナウでヤングなミュージックが台頭し始めた音楽シーンで、それでもと日本ではポップスやロックの分野でバンドがしがみついている。赤い公園の新しい挑戦は、そんなただでさえ行方のわからないロックバンドシーンにおいて引き続き挑戦を続けていくという新たな宣言でもある。


 きっと、必ず、彼女たちの残した音楽は、これから何人、何十人、何百人、もっとそれ以上の人たちの背中を押すことになると思います。
 それは佐藤千明の居た頃の赤い公園も、石野理子が加入した赤い公園も、ずっと残り続けて、これからそれぞれの赤い公園に、いろんな人達が出会っていく。


 輝かしい未来でも、希望に満ちた未来でもない、ありのままの、なんも決まってない未来に向けて、赤い公園、そして佐藤千明が、めちゃんこすごい、いなたいビートを響かせてくれること、願ってます。

 レディオ/冴えない今日に飛ばせ/日本中の耳に/異論のないグッドチョイスな/いなたいビートを/いつもありがと/この先もずっと/二人の電波/たぐり寄せて(NOW ON AIR/赤い公園)

 『NOW ON AIR』、出だしの「日々の泡につまづきやすい」って歌詞でなんか思わず泣きそうになった。