今日もご無事で。

今日も無事なら明日も無事でいて。そんなくだらない話。

「泡沫サタデーナイト/モーニング娘。'16」とか、「サイレントマジョリティー/欅坂46」とか。感想。

 夕飯は駅前のバーミヤンにした。気持ちの整理がつかないことばかりで、それならばいっそ雑多な環境に身を置いて忘れたかった。レジが壊れて慌てている店員は、それでも丁寧な言葉使いで席を案内してくれた。案内された隣の席では、若い主婦がそれぞれ子供を抱えながら向き合って話をしている。店のものではないスナック菓子の袋が広げられて、スナックのクズがテーブルの上だけじゃなく、床中に散らばっていた。
 「海外旅行に行きたいの。お金貯めて」
 どのぐらい現実味のある言葉なのかわからない。子供がソファーから降りて床を四つん這いで歩きはじめた。あやすように若い主婦はスマートフォンを与えた。時間を持て余した人々の会話でごちゃついた店内の隙間から、ゲームのノイズが聞こえる。

 自分のスマートフォンをカバンから取り出して、twitterを開く。なぜかtwitterのタイムラインの一割ぐらいはモーニング娘。'16の話題で埋まっているので、書く。

 「泡沫サタデーナイト/モーニング娘。'16」は、鈴木香音がメンバーとして参加するグループにとってのラストシングル。そして、作詞作曲を担当したの赤い公園のギター担当、津野米咲氏。
 今回のシングルを、赤い公園津野米咲が担当すると知って、発売まで心待ちにしていた。SMAPのJOY!のように、「明るくて切ないダンスナンバーなのでは?」という期待通り、ディスコ調の切なく踊れるJ-POPだった。なんたって“泡沫”ですからね。発売前にMVがフルで公開されて、いまはもう発売後なのだけれど、それこそ発売前は各所で盛り上がりを見せていたように思う。ジャニーズバージョンの泡沫サタデーナイトなんかコラージュされてtwitterでは盛り上がっていたかな。
 個人的な感想としては、やっぱりメロディーセンスが独特だなー、ずば抜けてるなーというところ。一聴すると、全体の流れにはしっかりとメリハリがあって、とても聴きやすくキャッチーな気がするんだけど、例えばAメロ最後の“私だけにしかきっと踊れない/そんなビートがある”の“が・あ・る”の譜割りが癖あってちょっ(良い意味で)と気持ち悪いよね。突然、低くなる。その癖を残しつつ、サビ頭には「サタデーナイト!」と言った緩急をつける為のパスを出す。そのメリハリのつけ方が意図的なのか、津野氏自身の作曲の癖なのか、「赤い公園らしいなー」ってのを感じさせる。
 アレンジは完全にディスコ調で華やかに鳴っている。ベースがペチペチと主張してくるのが良いね。ディスコナンバーってそういうもんなの?

 そして、歌詞が切ない。津野氏の明るいポップスに切ない歌詞を乗せる素晴らしき才能。いま、「次世代のためのLOVEマシーンだ!」って言われているけれど、個人的には少し違うのではないかなあと思ったりしている。LOVEマシーンは、“ド・ポジティブ”なんですよね。そのポジティブな成分を扱うには、聴き手にも対応するための“振り切り”が必要になってくる。
 一方で、泡沫サタデーナイトにはポジティブな成分だけじゃなく刹那的な成分も含まれていて、聴き手の“ポジティブじゃない部分”にも寄り添うんだよね。

踊りたい!誰も彼もが思いを抱えて/サタデーナイト!夢も泡沫/そうやってまたはぐらかして(泡沫サタデーナイト/モーニング娘。'16)

 この歌詞がアッパーなチューンとアップダウン慌ただしいメロディーラインに乗るんですよ。すごくないですか。むしろポジティブじゃない人が聴いて、涙を流すパターン。メロディーが心を刺激して、感情を呼び起こしたところに、刹那的な言葉でグッと攻めてくる手法です。

 そして、泡沫サタデーナイトと同時に気になっているアイドルグループの存在があり、それがこの4月にデビューした欅坂46の「サイレントマジョリティー」。CMで曲を聴いて「なにかのアイドルグループの曲だろうけど、誰の曲だろう?」としばらく気になり、それが乃木坂46の妹分としてデビューした欅坂46のことだと知った。
 この曲が素晴らしいのは、まずイントロです。アコギとストリングス(そしてピアノ)って個人的には最強の組み合わせだと思っているんですけど、これアコギ2本重ねてるんですよね。ミドルテンポの曲に華やかさ演出で2本重ねる、っていうの全然珍しくないんですけど、アイドルでそれやっちゃう?っていう。いきものがかりのSAKURAをね、アイドルが歌う?って話なんですよね。一見、おかしくない組み合わせなんですけど、よく考えると個人的には違和感あるんですよね。たぶん、アコギ2本にピアノとストリングスっていきものがかりはたくさんやってるんですよ。
 そして、イントロ終わっても尚、アコギのカッティングがかっこよい……。これは、フォークデュオのゆずがヒャダインとコラボしてカオスな曲を生み出した、あの感覚に似ているのでは…。
 と、ここまでわけわからないことを書いているのは、それぐらいにこの欅坂46の楽曲が“非アイドルのJ-POP”に寄せてきているからです。どっちがいいとかじゃなくて、アイドルで攻めるならやっぱり泡沫サタデーナイトみたいなアレンジなんですよ。

 この曲もまた、歌詞が切ない。とんでもなく刺さる。

人が溢れた交差点をどこへ行く?(押し流され)/似たような服を着て/似たような表情で(サイレントマジョリティー/欅坂46)

 似たような服を着たアイドルが、歌うデビュー曲の歌いだしがこれですよ!?
 もう完全にエールソングなんですけど「これを彼女たちはどんな決意で歌っているんだろう?」と考えると泣けてくるんですよね。同情では全くないです。むしろ、彼女たちが、その決意を持って歌っていることへの感動というか。
 「誰かよりも優れている」ということをアピールするのにいちばん厳しい世界に彼女たちは身を置いているわけですよね。支持された事を言わなくてはいけないし、支持された服を着なくてはいけないし、個性すらも選択されるかもしれない。
 その中で彼女たちは歌わなくてはいけないんですよ。

君は君らしく/やりたいことをやるだけさ/One of themに成り下がるな(サイレントマジョリティー/欅坂46)

夢を見ることは時には孤独にもなるよ/誰もいない道を進むんだ/この世界は群れていても始まらない(サイレントマジョリティー/欅坂46)

 ものすごい倍率を勝ち抜いて、やっと辿り着いた場所で“One of themに成り下がるな”“この世界は群れていても始まらない”と歌うわけですよ。すごい決意がなくちゃ、腐ってアイドル辞めますよね…。
 蛇足だとは思いつつも書きますけど、冒頭のバーミヤンにね、欅坂46の誰かが一人ではいってチャーハンでも頼むようなものなら、もうきっとオーラも違うわけで“them(群衆)”とは全く違う唯一を演出できるわけですよ。でもそうじゃない、っていう。
 「サイレントマジョリティー/欅坂46」、いろいろな面で、とても挑戦的な楽曲だな、と思いました。

 僕はどっちの楽曲も好きです。
 アイドルだからこそ歌える魅力が詰まっている。