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Album:新世界/ゆず[レビュー・感想][前篇]

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Album:新世界/ゆず[レビュー・感想][後篇] - 今日もご無事で。


▼「新世界」のはじまり
今回でゆずにとっての12枚目の新作となるアルバム「新世界」
ファンからすると、今回のアルバムは非常に期待値の高いアルバムであったと思う。
それはシングル「表裏一体」のカップリングに遥か昔、路上時代の楽曲「値札」が収録されたことも踏まえ、
今回のアルバムには「所沢」、そして初回限定盤には「おっちゃんの唄」といった
路上時代の楽曲が、また新たに収録されることとなったからだ(「所沢」はリテイク、「おっちゃんの唄」はデモライブ音源)。

新世界(初回限定盤)

新世界(初回限定盤)

今回のアルバムテーマは“懐か新しい”
プロデューサーには、「WONDERFUL WORLD」から引き続き蔦谷好位置氏が起用されている。
個人的には、「LAND」は非常に暗鬱さ(という程でもないけど、ゆずにとっての暗い面)を打ち出したアルバムであると思っていて、例えるなら「トビラ」のような、ライト層にはとっつきにくい楽曲が多かったようにも思う。
また、「2-NI-」は非常にポップで、明るく、ゆずの新しい形を提示していながらも、ゆずとしてのこだわりは捨てられていない近年の中でも素晴らしい出来のアルバムだと思っていて、例えるなら大衆受けを狙って作られた「ONE」や、「FURUSATO」に近い世界観があったように思う。
そして今回の「新世界」は、よく言って“ゆずらしさ”を求めていない、遊ぶところは遊び、語るところは語る、しかしメリハリを付けない、それぞれの新しい楽曲が、過去の楽曲と点と点でつながり、延長線上にそれらはあって、夫々の新曲と繋がった過去の曲、その直線が「新世界」の楽曲と平行線で俯瞰して見える様な構成であると感じた。
そういう意味では、「リボン」や「ユズモア」に近い気がしている。特に「リボン」なんかの時も、「ONE」を発売し、ベストを発売した後、ということで「REBORN(生まれ変わる)」と言った意味も含んでのことだった気がするので、実は今回のコンセプトと近かったりするのでは?と思っている。

▼懐かしさを引き連れて昇華する新生ポップス
そして、アルバムのオープニングを飾るのが、ほんの一週間前にリリースされた日本生命CMタイアップ曲第3弾「ヒカレ」
滑らかなストリングスで奏でられるイントロにアコースティックギターストロークが切り込んでいく。
壮大さと、その懐かしさが調和する、まさに“新生ゆず”としての楽曲である。

詞は“ヒカレ/輝くためこの瞬間/ヒラケ/未来へ勇敢に行こう”とシンプルながらも、
前後の楽曲としてのメリハリがキチンとしていて、かつての「虹」のように、サビがしっかりと活きる、映える楽曲となっている。
あくまで「君ならきっとやれる」といったゆずからの応援メッセージではなく、ゆず自身が自身に対して、歌っているような「ヒカレ」といったシンプルな叫びが、声援となって聴き手の胸を打つ。
この「ヒカレ」はMVがとても良い。

いつも思うけど、ゆずのアートワークって、毎度素敵だよね。

そして2013年末NHK紅白歌合戦でも歌われた「雨のち晴レルヤ」
まさにこれはレトロな楽曲であることに加え、間奏にドヴォルザーグの「新世界より交響曲第9番)」が組み込まれている。
ゆずの三拍子の曲って、実は地味に聴こえたりするんだけど、そのぶん楽曲のメッセージがゆっくりと心に沁み込んできて、じんわりと広がっていく傾向がある。
ごちそうさん」のOPでゆずを知った人もいるだろうし、優しい元気をもらった人も多いんじゃないだろうか。
若干「明日天気になぁれ」を思い出す部分もあるのだけれど、“アコースティックではないゆず”だけど“身近なゆず”を提示した一曲であると思う。

予報通り/いかない模様
そんな時こそ/微笑みを(雨のち晴レルヤ/ゆず)

▼優しいバラード「よろこびのうた」から続く多色な展開
フジテレビのドラマ「僕のいた時間」の挿入歌ともなっており、アコースティックギターとストリングスの見事な調和が独特の世界観を産み出している。
歌詞の最初と最後が同じフレーズとなっていて、聴き始めの時の“振り向かないでよ”と“振り向かないでよ”では、言葉の感じ方が全く違ってくる。非常にドラマの内容ともマッチしていると思うし、悲しみの決別を前に、相手の幸せを祈るメッセージであるように感じる。別れの歌でもあり、贈る歌でもあるのだろう。
そこから雰囲気は打って変わって「ユートピア」といったヒャダイン(前山田健一)が加わったデジタルハイスピード・ハイお囃子な楽曲だ。展開が目まぐるしく、アレンジが複雑で、言葉が流れに流れてくるカオスな空間に陥る、ある意味ではトランス状態にも入る様なビートが効いていて、そこに和の要素も楽器として鳴らされている、洋も中も和も掻き混ぜた様な「ユートピア」の世界観が聴き手の感情を整理する間も無く僕らを襲ってくる。
「表裏一体」でもそうであるが、こういったデジタルサウンド、ダンスビートを基調とした楽曲とゆずのアコースティックなサウンドを調和させようとする試みは非常に新しいし、まさに“ネオフォーク・エンターテインメント”に近づくための布石になっているのだと感じている。
これがいつしか“新たなスタンダード”として確立されれば、“新生ゆず”としてまた新たな地位を獲得できるが、ほんとうに「地下街」を歌っていた彼らの“フォーク”とは非常にかけ離れた場所にいて、前にも語ったけれど「“ゆず”が破壊することができない事実、確信を持った上で、どこまで“ゆず”を破壊できるか」ということに彼らは挑戦しているようにも思える。

▼夢と現実をかろやかに綴る
その後に控えるフジテレビドラマ「僕のいた時間」のイメージソングとなっている「素顔のままで」はイントロのアコースティックギターとストリングスが暖かで印象的だ。
「ヒカレ」とは違った、また静かなアンサンブル。ボーカル岩沢氏の珍しく低音ながらも、ビブラートの聴いた優しく魅了する歌声が堪能できる一曲だ。
どこか幻想的で、まるで夢の中での物語を、幸せを感じているかのような、実はいつかそこから覚める日が来てしまうのではないかと感じさせるような詞の世界観は、刹那と温かさを同時に含んでいる。

くじらが空飛ぶ夢を見てた/境目のない海の向こうへ/
悲しみどこか連れてゆくなら/残るのは真っ白な世界(素顔のままで/ゆず)

そして「幸せの定義」をパッと聴いて思う浮かんだのが「一っ端」
これこそ、ゆずの真骨頂というか、岩沢氏のお得意分野・最少で最大の軽快フォークメッセージソングであろう。
世の中を観察し、あーでもないこーでもない、無駄な風景ばかりを綴っている様で、どこかメッセージに繋がっているような特にアルバム「すみれ」に収録されていた「カーテンのせい」のような“(客観的な)日々、人々の生活”を描き出し、それが僕らの生活のリアルに思わず同調してしまう、いつの間にか汚れきった気持ちをアコギのストロークで洗い流してくれる優しい楽曲。
こういう軽快な曲こそ、やっぱり“ゆず”だよな、と思わせてくれる。

どっちをとってもきりがない/そんな人たちとしゃべってる/
見分けがつかない/一体本物はどれだ(幸せの定義/ゆず)

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