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ヒカリノアトリエ/Mr.Children[感想・レビュー]

ヒカリノアトリエ

ヒカリノアトリエ

 集大成じゃない“今”を照らし出すヒカリノアトリエ

 どんな風に毎日を過ごしていても、生きている限り傷つくこともあれば、どうしようもない出来事に出合うことが多々ある。それは逃れようの事実であることを私たちは知りながらも、衝突の度に柔軟な心は、その事実に耐えようとしながらも望まない形に歪んだりする。「気持ちよく毎日を過ごせたら」「なににも靡かれず、雨にも風にも出くわさず、平穏に今日を生き続けることができたら……」そんな一縷の望みを口にすることは、夢想家の戯言に近いことも知っている。それでも、日々を生きているのは、大袈裟に言えば、ものすごく大袈裟に言えば“100万回のうちたった一度ある奇跡”を見逃さないためなんじゃないかと、たまに思う。たとえ「惰性で生きている」と答える人がいたとしても、その人にとっての奇跡はきっとあるはずで、その瞬間にいつどんなタイミングで出くわすことができるかにかかっている。

 Mr.Childrenは2017年の5月10日でデビューか25周年を迎える。アニバーサリー・イヤーに用意された第1弾シングルが朝ドラ「べっぴんさん」主題歌である『ヒカリノアトリエ』だ。『ヒカリノアトリエ』は、昨年前期から実施されている「Mr.Children Hall Tour 2016 虹」でも「こころ(仮)」「お伽噺(仮)」についで新曲として披露された楽曲。
 実は「Mr.Children Hall Tour 2016 虹」そのものが特殊なバンド編成でのライブとなっており、Mr.Childrenのメンバー4人に加え、キーボードとしておなじみのサポートメンバー「SUNNY」、管楽器(トランペット、サックス、フルート)の「山本拓夫」「icchie」「武嶋聡」(公演により参加が異なる)、そして異例とも言われた抜擢が女性2人ユニット「チャラン・ポ・ランタン」からアコーディオン奏者として小春が参加。
 チャラン・ポ・ランタンMr.Childrenの関係は、このツアーを機に深まり、1月18日に発売されるほぼフルアルバム「トリトメナシ」に収録される「かなしみ」に演奏でバンドメンバー全員が参加している。Mr.Childrenのメンバー全員がひとつのアーティストに“演奏”として参加するのは、これまた異例であり、楽曲の仕上がりも素晴らしい。

 『ヒカリノアトリエ』の話をしているはずが、チャラン・ポ・ランタンの新曲を紹介してしまったが、昨年から行われているツアー「Mr.Children Hall Tour 2016 虹」、そしてそれを得てリリースされた『ヒカリノアトリエ』はMr.Childrenにとって新たな姿をうつす1曲となった。
 ツアーメンバーの編成からも分かるとおり、今回のMr.Childrenは“サックス”や“アコーディオン”といった楽器にスポットをあて調和した、少し安易な言葉で語ってしまえば“あたたかみのあるMr.Children像”を“アレンジ”で生み出している。
 その中身も“いままでのMr.Childrenの集大成”を25周年という節目で見せつけるといった壮大なアレンジや演奏になっているわけではなく、あくまで“着実に1歩、新たなステージに進んだMr.Children”を感じさせる楽曲だ。

 “温かみ”と“切なさ”が共存するアレンジ

 それは朝ドラを意識してのことだったのかもしれない。『ヒカリノアトリエ』のイントロから流れるアコーディオンのメロディーはなめらかに美しく、温かみと切なさで心を包んでくれる。一旦演奏がひけたあと、桜井氏の歌とアコースティックギターがかき鳴らされる。前向きな言葉が綴られながらも、その後ろ側に秘められた迷いと決意の気持ちが汲み取れる。

「雨上がりの空に七色の虹が架かる」
って そんなに単純じゃない
この夢想家でも
それくらい理解ってる(ヒカリノアトリエ/Mr.Children

 『ヒカリノアトリエ』は楽曲の中で終始、気持ちの“表側”と“裏側”について歌っている。それは、陰影がついてこそ“光のアトリエ”がやっと完成するということを表現しているのかもしれない。確かな事実と幸せは、いくつもの闇を抱えながら成り立っていることを、この楽曲でも、あらためて歌っている。
 あたたかでキャッチーなメロディーの裏側で、儚げに鳴るアコーディオンは、“温かみ”と“切なさ”を共存させ、いままで以上に訴えかけてくる桜井氏のハモリは、その闇と光、裏と表、そんな2つの側面を持った心の声を表現しているようだ。
 大サビに入る前のクラシックギターアルペジオは、少しだけ切なさをおさえて安心感を与える。そして、心なしかアウトロにかけてのバンドの演奏がフルートの軽快な鳴りのせいか、イントロでの印象よりもより明るいものになっているように感じている。
 余談だがSecret Trackとして収録されている『Over』は、『Alone Again (Naturally)/Gilbert O'Sullivan』に影響を受けているようで、「明るいメロディーに、悲しい歌詞を載せたい」といったコンセプトから作られたと桜井氏は語っている。得てしてか、今回の『ヒカリノアトリエ』も、そんな雰囲気すら感じ取れ、もちろん別れの歌ではないが楽しいことばかりを歌うわけでもない、刹那を含んだ楽曲に仕上がっている。
 聴き終わったときに、まさに“雨上がりの空に虹”が架かったような気分になる。私はどうしても、この楽曲の流れに『終わりなき旅』を感じざるを得なかった。

憂鬱な恋に 胸が痛んで 愛されたいと泣いていたんだろう
心配ないぜ 時は無情な程に 全てを洗い流してくれる(終わりなき旅/Mr.Children)

 『終わりなき旅』も一見ポジティブな要素だけを詰め込んだ楽曲のようで、傷ついた今を受け止めながら、前に進もうとする曲である。だって、まだドアは開いていないのだから。

過去は消えず
未来は読めず
不安が付きまとう
だけど明日を変えていくんなら今
今だけがここにある(ヒカリノアトリエ/Mr.Children)

 最後にこう綴られる言葉は、決してその不安が取り除かれることは示唆せず、それを抱えても尚、ひたむきに前を向くことがなにかにつながるかもしれないということを伝えてくれている。
 もう、なんていうか、めちゃくちゃシンプルなメッセージなんだけれど、いつも以上にシンプルなんだけれど、ある意味では『終わりなき旅』の生まれ変わりというか、そんな風にすら思っている。

 カップリングも素晴らしいです

 『ヒカリノアトリエ』にはツアーで先行して披露されている『こころ(仮)』や『お伽噺(仮)』は収録されず、カップリングには今回のツアーメンバーの個性が活かされた『くるみ』『つよがり』『CANDY』のスタジオセッションと、『Paddle』『ランニングハイ』のLive音源が収録されている。
類に漏れず、これらも原曲以上に素晴らしい仕上がりになっているので、ぜひファンの方々には聴いて頂きたい。特に『ランニングハイ』は臨場感も相まって、いつも以上の元気をもらえる仕上がり。
 ちなみに、ひっそりと息を潜めたままの新曲『忙しい僕ら(仮)』は、Live DVD & Blu-rayMr.Children Stadium Tour 2015 未完』の特典映像で少しだけ聴けます。これも歌詞が素晴らしい楽曲なので、リリースが楽しみです。

 今年の5月10日に、キタイ!