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『リトル・フォレスト』/映画・ネタバレ


少し前に観た映画なのだけれど、これもまた素晴らしかったので、書き記しておきたい。

映画 リトルフォレスト ※非公式ファンサイト

▼自然との共存
僕もまた瀬戸内に住みたい人間のひとりで、昨今では田舎(地方で暮らす自然豊かな暮らし)を賛美するメディアも目につくようになった。
これが一概にいい流れと言えるかどうかは難しくて、ある意味じゃ「じゃあ、地方にいって仕事はあるのか?人間関係は拓けているのか?」というとまだまだそうでない部分も多いと思う。
観光地化した地方が活性化すると比例して、いままでそこにあった街が進化していくわけじゃない、あくまで新しいものが古いものを食い潰していくだけの一面もある。

前置きが長くなったけれど、映画『リトル・フォレスト』は決して田舎を讃える映画でも、エコを訴えるメッセージ性の強い映画でもなんでもない。
自然に生きる‘いち子(橋本愛)’の姿が淡々と映し出されていくのだ。

自然との共存。

人間が、あるべき姿としてありのままに自然に身を委ねる。
破壊も再生も、人と自然が織り成すひとつの姿。
それがこの映画には表現されていると感じた。

生きるって、季節が織り成す空気を、目一杯感じることなのだと。

▼映像美
会社帰り、レイトショーで僕はヘトヘトの姿で観たのだけれど、とにかく映像が非常に美しかった。
ROBOT COMMUNICATIONS INC.が関わっている様なのだけれど、シーンの写し方が群を抜いて素晴らしい。
特に自転車で山を駆け下りていくシーンがあるのだろうけれど、まるで僕らもそこにいるような時間がゆっくりと流れる、あるはずのない風と空気を感じる至福の感覚だった。

映画で、映像で、感覚を表現できるってすごいと思う。
僕の感性が豊かでないのかもしれないけれど、映像を通して例えばグロテスクなシーンがあってもなかなかその手触りをイメージで感じ取ることって難しい。
しかし、この『リトル・フォレスト』は疑似体験とまでは言わずとも、僕らが自然に生きるイメージを空気感を伝えた。

リトル・フォレスト(1) (ワイドKC)

リトル・フォレスト(1) (ワイドKC)

▼物語〜小森(リトル・フォレスト)での暮らし、食べる幸せ
原作は五十嵐大介氏。「魔女」などで知られる絵のタッチが独特の漫画家。
「リトル・フォレスト」は全2巻で発売され、映画は原作に非常に近い形で各々のシーンが映像化されている。
言い換えれば五十嵐氏の絵のタッチが非常に映像的で、生々しく、空気感を持っているのだ。

物語は、東北地方にある小さな村、小森で産まれたいち子が東京から戻ってくるところからはじまる。
いち子の母親は行方が分かっておらず、いち子はひとりで小森で暮らしている。
母親とのことを何度か思い出しながら、オリジナルの料理をいくつも展開していく。

食べる幸せを描写する。

春夏秋冬の季節が影響する生活、そこに柔軟に対応する暮らし方。

人は心に余裕を持てて、食べる幸せをゆっくりと噛みしめることができるのだと思う。
人の三大欲求は、あるとするならば、それは人間らしい暮らしが出来ている時だ。
よくもわるくも、なにものにも左右されない、‘時間はあなたが決めるのよ’とたらしめる生活が、小森では待っている。

まさに自給自足だ。
ま、資金はどこから調達するのって話もちょっとあるけどね。

▼「ああ、このままここでのんびりなにも考えずにいられたら」
瀬戸内に行ったときに感じた、「ああ、このままここでのんびりなにも考えずにいられたら」という思い。
自然の中に‘感じる音’があると僕は思っていて、わずかだけど『リトル・フォレスト』は映像の向こうからそれが伝わってきていた。
いち子は、1000年後も、100年後も、10年後も考える必要のない、自然とただ生きる時間を与えられたのだ。

呼吸することが幸せに繋がる空間。

ある意味じゃ、この映画は、この生活は幻想なのかもしれない。
社会と生活していく以上、現代は「現代らしい」生き方を僕らに求めてくる。
これは、申し訳ないけど、現代らしい生き方ではない。少なくとも社会はそこにシフトしていない。

それが、ここ最近の「田舎で暮らそう!」ブーム(とはいえ、昔からあったと思うけど)が「ちょっとどこかおかしい」と言われる原因でもあると僕は思う。
田舎は、都会よりも地方としての問題が山積しているわけであって、そこを解決するスキームを社会は用意していないのだから。

▼料理、橋本愛、森
この映画は「橋本愛のイメージビデオか?」なんてコメントがヤフー映画にあったけれど、それぐらいに物語の展開はほとんどなくて、美味しそうな料理が「1st dish」「2nd dish」なんてキーワードと共に展開されていく。
最近「もらとりあむタマ子」というのも観たのだけれど、これもまたなにもなく淡々と映ろう映画で、僕はとても好きだ。
田舎で暮らすことをイメージさせる作品ではなく、僕はおそらく呼吸させる為の作品だと感じた。

だから、また大きなスクリーンで観たいなあ。
DVDも買うだろうけれど、小さな画面より大きな画面で観たい。

音を、空気を感じたい。
レイトショーの後、僕は人混みの中に放り出されて、気が付いた。
ああ、ここは東京なんだ、って。東京に生きているんだと。

喧騒に埋もれた東京で、優しい呼吸を与えてくれる幸福の物語でした。

YUIが新しく組んだバンド「Flower Flower」のテーマ曲も非常に素晴らしかったです。あと、宮内優里さんの音楽もめちゃくちゃ素晴らしかった。これが良く考えたら一番言いたかったかも!!
サウンド・トラック欲しいです!