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さらさら/僕はきっと旅に出る×スピッツ[レビュー・感想]

スピヲタ(スピッツヲタク)にとっては、待望のニューリリース。
2年8ヶ月ぶりとなり、彼らにとっては通算38枚目の両A面シングル「さらさら/僕はきっと旅に出る」
「さらさら」はJ-Waveの春のキャンペーンソングとなっている。

シングルがリリースされたということは、制作中と言われている新しいアルバムのリリースも間近ということが予想されるのでよりワクワクしてしまう。

▼水の流れを表現する“さらさら”、心の中に波及する言葉
最近で言えば、「桃」を彷彿とさせるクリーントーンでの暖かいギター。
そこにボーカルが加わり“素直になりたくて/言葉を探す”“何かあるようで/何もなくて”と夫々に矛盾を歌う。
Bメロで情景を綴り、暗く小さな部屋で独り、なにかを思いに耽る主人公が想像に浮かぶ。

静かに情景を描写してきたサウンドは、サビの前で雨が止むように呼吸を合わせる。
息を吸い込むように、輝きだしたギター、ベース、ドラムは迫力を伴ってスピーカーから溢れ出す。
“だから眠りにつくまで/そばにいて欲しいだけさ”と赤裸々な歌詞が綴られる。

この楽曲の特徴的な部分はなんと言っても、Cメロ〜間奏の部分じゃないだろうか。
「さらさら」はスピッツの中でもピカイチにキャッチーでメロディアスな楽曲であると思うけれど、そのCメロから間奏、そしてラスサビへの展開はスピッツの中でももっと稀な、そして格好良い展開であると思う。
サウンドの特徴としては、基本的に歪んだギターミュート、支えるベースと安定したスタンダードなドラムのリズムで五線譜の上を走っていくのだけれど、“湖へ湖へ”や“正解 正解”と言葉をリフレインさせるのがとても特徴的である。
これはまるで、水面の上に言葉を浮かべて、そっと波及していくのを眺めているような、そんな気持ちにさせるアレンジだ。

この「さらさら」というタイトルは、“手触り”のことではなく“水の流れ”であり、この楽曲そのものがどこかさらさらと流れてゆく、心の中に流れ込んでゆく音楽のように感じる。

▼永遠に対する刹那を綴るポップソング
また、スピッツの中でもとてもメッセージ性の強い楽曲であると思う。
「Y」で発せられたような、心に傷を負ってしまった人たちへの旅立ちの歌の様にも聴こえるし、何度だって未来を信じる強さを訴えた「ビギナー」のような強さも感じる。
“朝が来るって信じてる/悲しみは忘れないまま”と苦しくも前向きな未来を綴る一方で、“君の指先の/つめたさを想う/いつも気にしていたいんだ/永遠なんてないから”と時間の刹那を綴る。
「若葉」でも感じていた永遠という言葉に対する刹那を、よりポップに、そしてより歌い手(主人公)に近づけて描かれた楽曲である様に聴こえた。

いつも気にしていたいんだ/永遠なんてないから/少しでも楽しくなって/遠く知らない街から/手紙が届くような/ときめきを作れたらなあ(さらさら/スピッツ)

▼僕はきっと旅に出る
今回のリリースは、あまり推していない印象もあるが、両A面シングルだ。
魔女旅に出る」を彷彿とさせるタイトル。
全体の構成としては、なんとなく「恋する凡人」にも似ているかな、なんて。

印象的なピアノのフレーズから楽曲ははじまる。
Aメロはゆっくりと曲が進み、エレキギターのミュート混じりのストロークが心地良いリズムを刻む。
そして、サビでバンドは何色にも色を変えるアンサンブルを奏で始める。

この楽曲もまた、Cメロ〜間奏〜ラスサビの流れがスピッツの中でもとっても素晴らしい。
スピード感を増したメロディーと、その加速度を保ったまま突入するギターソロ。
はばたくことを許されたように鳴る豊かなベース。

3つあるサビのいずれも別の風景描写によって刹那を訴えているこの楽曲。
「さらさら」同様にメッセージ性がとても強い楽曲であると思う。
“星のない空見上げて/あふれそうな星を描く”と“あるもの”と“ないもの”のギャップを綴る歌詞も「さらさら」と似ている。

また、詞の書き方が“新しいスピッツ”を彷彿とさせると同時に“古いスピッツ”を踏襲している様にも感じる。
“新しいスピッツ”というのは「君は太陽」でも感じた様な、とことん素直になっている主人公。ストレートな言葉で綴られる歌詞。
“古いスピッツ”とは一方で感性豊かな風景描写を綴る“初夏の虫のように/刹那の命はずませ”といったフレーズなど。

とにかく今回のスピッツは前向きで、俯いた人が、俯いた地面に湖を描き出すような歌ではなく
俯いた人が、心地よい風を受けて、空を見上げたくなるような、はばたきたくなるような
そういう意味での前向きなメロディーと歌詞を綴る楽曲であると思う。

だって、“たぶんそれは叶うよ/願い続けてれば”なんて歌ってしまうんだから。

あのスピッツが。

神様じゃなく/たまたまじゃなく/はばたくことを許されたら(僕はきっと旅に出る/スピッツ)