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真夏の方程式/東野圭吾[感想・レビュー]@ちょっとネタバレ

ずっと読まずにいた。
ガリレオシリーズ長編、最後だったから。
これを読んでしまったらガリレオがもう読めない!そう思って放っておいた。

しかし、映画化も決まって、単行本化もされて、もうこれは、下手にネタバレを見てしまう前に読んでしまおう!と。

一言でいうと、やっぱり素晴らしかった。

真夏の方程式

真夏の方程式

ガリレオの苦手とする子供が、本作のキーワード
ガリレオシリーズの主人公である湯川学は、子供が苦手だ。
そういう発言はあるものの、ガリレオシリーズには何度も子供がでてくるわけではないので、長い期間、湯川と子供が接するとどういう化学反応が起こるのかは未知だった。
本作「真夏の方程式」では、その湯川と子供が数日間一緒にいることとなる。

そして、「真夏の方程式」は、作者東野圭吾が述べている様に「陽性」の物語だ。
いままでのガリレオシリーズにはない、常にどこかに暖かい陽光が差し込んでいる感じ。
しかし、そこには光があるように影がある。

本作に登場する子供、恭平のことを湯川は「偏屈な少年」と例える。
「偏屈な学者」である湯川が子供を「偏屈」呼ばわりする。
そういうコミカルな笑いが所々に鏤められていたりする。また、湯川が少年と向き合おうと思った理由もそこにあるのだろう。

その少年と向き合いながら、湯川は本作の事件に踏み込んでいく。

▼知ってはいけない方程式、解いてはいけない謎
いつものガリレオシリーズ長編では、最初の方で犯人が分かる。
しかし、今回は犯人が誰かが分からないまま物語が進んでいく。
そして、なぜ湯川が事件に参加するかと言えば「この事件の結果によって、ある人物の人生が捻じ曲げられてしまう可能性があるからだ」と湯川は言う。

つまり、単純な事件のように見えて、その事件の裏側には「解かざるべき謎」が隠されていることが分かる。

やがて、過去と現在、それぞれの事件が複雑に交差し、絡まり合い、収束していく。
東京と玻璃ケ浦、過去と現在、子供と大人。
それぞれが事件を中心に絡まりあっていく。

容疑者Xの献身と、通ずるなにかと、真逆を行く部分
容疑者Xの献身では、「愛とは、なにか」ということがテーマのひとつでもあったと思う。
今回もそうだ。
「誰かの人生を思うとはなにか」がテーマのひとつになっていると思う。

なんというか、登場人物たちの動機については今回は非現実的な部分、想像し切れない部分が多かったけれど。
それでも本作は、誰かが誰かを必ず思っていて、その人を守ろうと、その地を守ろうと、なにかを犠牲にしている。
その犠牲を隠しながら、笑って暮らしている。

恭平は、そういう大人の現実に疑問を持っていたのだと思う。
肝心なことに限って、大人は理由を隠す。
子供にはなにも話してくれない。

しかし、湯川は、そんな恭平に少しずつ「真実」を伝えていく。
いま、恭平が知るべき事実を、恭平が将来出会うべく課題にぶつかった時に開くための鍵を、少しずつ教えていく。
そして、恭平は、知るべきでない真実に少しずつ近づいて行ってしまう。

そして、真夏の方程式と、容疑者Xの献身では、ある意味真逆の部分が在ったりする。
その部分は、是非読んだ人それぞれが考えて欲しいと思う所でもあるのだが、
「誰かを思う」形が、容疑者Xと比べ様々であった、と言い換えてもいいかもしれない。

▼真夏は、煌めきを焼き付けて、切なさを遺していく
夏という季節は、とにかく輝いて、期待感を伝えて、やがて、とてつもない刹那を胸に焼き付けて去っていく。
本作「真夏の方程式」の物語の流れは、まさに夏という季節そのもので
物語が真実に近づいていく高揚感で読み進めていくけれど、真実を知った時にがーっと胸に波のような刹那が押し寄せる。

いままでのガリレオシリーズは、真実そのものが重く苦しいものであったから、読んでいても若干の暗い雰囲気があった。
だから、心の準備は出来ていた。

しかし、本作は、真実のページに辿り付いた時、真夏の海に突然放り出された様な、
行き場のない感情に出会う。

それは、ある人がとれば悲しみであり、ある人がとれば苦しみであり、ある人がとれば刹那である。

湯川自身がその真実に対して、どのような感情を抱いていたのかは分からないし、
本作も、その真実が、その真実を持つ人物に、どのような影響を与えたのか、ということは伝えていない。
どうなるかは分からない。

ただ、妙にすっきりして、水平線の向こう側には、太陽の光が乱反射して、きらきらと輝いて、
すべてを飲み込んでくれそうな、そんな希望さえ微か見える話だった。

▼そして、少年と、科学者は
兎にも角にも、そんな大きな謎を抱えた物語の中で、キーポイントとなる少年の恭平と科学者の湯川のやり取りは呼んでいてとても楽しいし、和やかだ。
江戸川乱歩の少年探偵団を思い出すような思い出さないような。
恭平の好奇心が、事件とは全く別の場所で動いていて、そこに加わる湯川が、まるで小休憩のように描かれていた。

だからこそ、この物語「真夏の方程式」は“陽性”なのだと思うし、読み終えた後の心の刹那は、晴れ晴れしい。
明日も誰かが、誰かを傷つけないようにと、ひっそりとやさしく祈りたくなる一冊だった。

真実を知る為の、正しい方程式がある。

真夏の方程式 (文春文庫)

真夏の方程式 (文春文庫)

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