ワールドクリエーションのコピー:佐藤司郎
以前、別のブログに掲載していた記事を転載。
好きなコピーについて書いたもの。
一度オーロラを見たかったな。病室で母がいった。今度、連れていってあげるよ。最後の嘘をついた。
(ワールドクリエーション/佐藤司郎)
僕が好きなコピーはいくつもあるのだけれど、特に心に残っているコピーについてはじめに書いておきたい。
これは、twitterのコピーライターbotかなにか、その類のものをフォローしていて出会った言葉なのだけれど。
最初みたとき胸がきゅーっと締め付けられて、僕が嘘をついたわけでもないのに、小さな罪悪感と刹那が心に沁みこんできたのを覚えている。
これは旅行会社のコピーで、調べてもあまり出てこないのだけれど、企業広告かなにかに実際に使われていたのかな?
このコピーが素晴らしいな、と何度見ても思うのは、“最後の嘘をついた”という最後のフレーズ。
このフレーズがあることで、この一行に物語が吹き込まれる。
“最後の嘘をついた”というフレーズがあることで、
・この母親の死期が近いと子供が感じていること
・子供がいままで嘘をついてきたことを思い返していること
・もう母親と子供が旅行にいくことはできないであろう、ということ
・“嘘”ということを自覚していること
などなどが読み取れる。
これが、
「一度オーロラを見たかったな。病室で母がいった。今度、連れていってあげるよ。僕がそう言うと、母は微笑んだ」
だと、なんの変哲もない、平凡なフレーズになってしまう。
「一緒に旅行にいけるかもしれない」という希望を一切もたせないこのフレーズが、どうして良いと思ってしまうのか。
それは、「一緒に旅行に行けるかもしれない」という希望が、人を旅行に行かせなかったりするかもだ。
「もうこんなチャンスはないかもしれない」という刹那が、人を動かすのでないかと思った。
“最後の嘘”というフレーズが、刹那を掻き立て、せめてもの親孝行をしてやりたいという気持ちにさせられる。
その一行で、様々な物語を想像させる、バックグラウンドのみならず、生涯までを想起させる、このコピーが、僕はいまでも強く印象に残っています。