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瀬戸内国際芸術祭2013×レポート,感想,まとめ〜その2(作品の感想)

▼作品の感想
公式ガイドブックの中で「瀬戸内国際芸術祭 総合プロデューサー」である福武總一郎さんは、以下のように述べられています。

解説を読んで理解するのではなく、作品を見て感じてほしい。そして「この作品はこういうことをいっている」と自分の言葉に置き換えてみてほしい。勝手な解釈をしてよいのですから。もう一つは、島々にすんでいる人々の生き方から学び、経済が目的ではない、「経済は文化の僕(しもべ)」というメッセージを、総合プロデューサーとしての僕の立場からは少しでも伝えたいです。

とても素敵なことを言っていると思いました。作品の解釈なんて人それぞれで、やっぱり芸術についてあれやこれやと「世間はこの作品をこう評価するべきだ」と他人の声には耳を傾けず述べるべきではないし、それは恥ずべき行為じゃないかなー、と。

僕が個人的に印象的だった作品についてさらっと述べていきたいと思います。
全部の作品を見たわけではないので、あくまで個人的感想です。例えば、I♥湯は3回ほど直島に訪れているのですが何度も行き損ない、小豆島は今回はじめて本格的な探索をしたのですが、想像以上の広さに、すべてはカバーできませんでした。。。

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❐家プロジェクト

[角谷/Sea of Time’98ほか×宮島達男@直島]

 水面に浮かぶLEDデジタルカウンターがそれぞれのはやさでカウントします。それぞれの時間がそれぞれに流れる、水面近くにカウンターが浮かんでいるものや、少し下の方に沈む数字が歪んで見えないもの。ある時は、生と死を思わせ、ある時は、この田舎と東京などそれぞれの地で流れる体感を示しているようにも思わされます。

[南寺/バックサイド・オブ・ザ・ムーン×ジェームズ・タレル@直島]

 僕らは暗闇に放り出されます。一瞬ですが、ほんとうになにも見えません。しかし、見えないのは一瞬であったことに気付きます。見えることの方が当たり前であることに気付きます。僕らは見えないと思っているから見えないのであって、見えないことになれてしまえば、一瞬で光は現れるのです。見えないのは、たった一瞬です。

[はいしゃ/舌上夢/ボッコン覗×大竹伸朗@直島]

 もともと歯医者だった建物の内装を取り壊し、リフォームしたもの。とはいえ、ほぼ原形は留めていなく、その現代アート的な雰囲気に圧倒されてしまいます。しかし、この家は決して風景を損なうことなく、強くそこに在ります。

[三分一博志建築構想展×三分一博志@直島]

 その土地特有の風や太陽、空気のみを用いて季節ごとに室温をコントロールする「エナジースケープ」という概念を用いて建築設計をしていこう、という考え。犬島の精錬所が、この概念を用いた設計になっており、直島にも新しいコミュニティーセンターが創設される予定です。この自然のみを使った温度調節、というのは建築において素晴らしい思想であると思います。その土地特有の性質を調べるのに、例えば直島であれば1年以上かかるようです。

[F邸/Biota(Fauna/Flora)×名和晃平@犬島]

 今回の旅、名和さんの作品を見ることができただけでもとにかく価値があった。見たくて見たくて仕方がなかった。しかも、新作!観終わった後は、その凄さに圧巻でした。鼻血が止まらなかった……。とにかく犬島に行く機会がある人はじっくり見てほしい作品です。ここでしかきっと見ることのできない風景だな、と感じました。
 名和さんの作品は、観る角度によって全く違う表情を見せるので、是非様々な角度から観察してみてほしいと思います。
 今回の[Biota(Fauna/Flora)]は、エネルギーを集中させるというか、脅威、覚悟のような、いままで見た名和さんの作品の中でも群を抜いて力強くエネルギッシュで無機質で破壊力のある作品だと感じました。凄い。

[A邸/リフレクトゥ×荒神明香@犬島]

 とにかく美しい作品。煌びやかで華やかな作品の中の世界と、穏やかな外の世界との調和を感じました。

[S邸/コンタクトレンズ×荒神明香@犬島]

あっち側の世界と、こっち側の世界は違うんだよ、ということを教えてくれるような作品でした。[リフレクトゥ]もそうですが、とにかく作品そのもののレイアウトが素晴らしく、島の風景と調和していて楽しむことができます。

❐作品

[あなたが愛するものは、あなたを泣かせもする×トビアス・レーベルガー@豊島]

 多種多様な色、レイアウト、柄で部屋が構成され、目が回ってしまいそうな錯覚が起きそうな部屋。まさに現代アートといったような雰囲気を醸しだす作品。お茶が飲めたかどうかは分からないけれど、椅子やテーブルは座って休憩することも可です(休憩する場所じゃないかもしれませんが、とにかく座ったりはできます)。あと、タイトルがとても興味をそそるものでした。

[100年の闇ほか×木下晋@豊島]

 これは、絵そのものも素晴らしいのだけれど、見せ方が素晴らしいと感じました。まさに民家を使って、この場所、この空間、訪れる人たちの心境をうまく想像して設定された作品だと感じました。

[ストーム・ハウス×ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー@豊島]

 なんの変哲もない民家の中に座って晴れた窓の向こう側を見ているといつしか雨が降りだし、稲妻が光り、風が吹き、窓が揺れ、嵐が訪れます。子供の頃に感じた、あのどこか不思議な気持ちを民家の中で、もう一度味わえるのではないかと思います。ちょっとしたノスタルジー

[心臓音のアーカイブ×クリスチャンボルタンスキー@豊島]

 この作品は、コンセプトが素晴らしい。自らの心臓音を録音し作品に参加するスペース、海を見ながら様々な人の登録された心臓音を聴くスペース、真っ暗な部屋に燈された豆電球の点滅を感じながら誰かの心臓音を聴くスペースが用意されています。心臓音の図書館として、まさにいろんな感じ方ができるアートであると思うし、なんの意味もないかもしれないアート。

[遠い記憶×塩田千春@豊島]

 これもまた「ストーム・ハウス」で感じたような子供の頃の記憶をくすぐられる作品。知らない場所に迷い込む緊張感や期待、そして古びて錆びた木製建具から感じられる時間の刹那。どの作品も勿論そうですが、この作品は特に、多様な感じ方、受け取り方のできる、それでいてやさしい作品だと思います。

[男木島の魂×ジャウメ・プレンサ@男木島]

 これはなんというか、うまく言葉で説明できる作品ではないのですが、まさに普遍的なアートだな、という感じがします。原点、というか。堂々としているし、現代的であるし、前衛的すぎない。かといって、古臭くもないが、古典的。すべての矛盾を抱え込んでぴったりとアートとして揺らぐことなく、そこに在る。屋根とゲートをくぐった空間には、ショップがあったり休憩できる空間となっています。

[Wander Island×升谷絵里香@小豆島]

 ほぼイベントの時などでしか使わなくなってしまった島の体育館。その体育館に足を踏み入れるという行為そのものが既にどこか気持ちを揺らがせる一因となるのですが、体育館の中は映像インスタレーションが3作品あります。いずれも小豆島にクローズアップすることで作られた作品であり、暗闇に3つの違った視点で映し出される小豆島は、もしかしたら僕らが肌で感じている小豆島より小豆島らしいかもしれません。

[空間収集-小豆島と自然と生きていたもの-×佐藤隼@小豆島]

 目の前に広がる虫、虫、虫。大きくもない民家の中には小豆島で採集した約3万匹もの昆虫の死骸が広がっています。割れたガラスに樹脂で固められた昆虫の死骸が生々しくもあり、グロテスクでもあります。奥へ行けば行く程に視界を昆虫が埋め尽くしていく体験ができます。蜂の巣の横に、殺虫スプレーが置いてあったりするなど、標本とは少し違った“明らかに人間の手によって行われた行為”という感覚が違和感であるのか正常なものであるのかは分かりません。

❐美術館

[豊島美術館@豊島]

 アーティスト内藤礼さんによる作品「母型」が展示されている美術館。また、豊島美術館は建築家・西沢立衛さんによってデザインされました。平面ではない床の様々な場所から水がゆっくりと湧き出てきます。ほんの少しずつ湧き出た水は、なだらかに床の傾きに沿って滑っていきます。やがて様々な場所から湧き出た水は集合体を作ったり、開けられた穴の中へ落ちていったりします。そして、その落ちていく音が小さく空間に響き渡るのです。また、天井に開けられた大きな穴から豊島の風景、音が空間に流れ込んできます。その調和を、時間をかけて楽しむことができます。



ざっと書くと僕が感じた、印象的な作品の感想はこんなもんです。
やはり瀬戸内国際芸術祭の見どころは、古い民家をリノベーションした「家プロジェクト」なんですかね。その町の時間の経過や、過去の匂いを感じることができることもあってか、家プロジェクトには印象的な作品が多かったように思いました。

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瀬戸内国際芸術祭2013公式サイト
瀬戸内国際芸術祭2019

*1:役立つ公式ガイド