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歌に活かされた歌のための音楽 / Album:HOME(Mr.Children)全曲レビュー

Mr.Childrenにとって13枚目のアルバム。
前作のI♥Uからは打って変わって「日常」に焦点を当てたモード。
特にそれを象徴するのがM-3[彩り]

 本作のタイトルである「HOME」はタイトル候補のひとつでもあった「HOMEMADE」から派生したものである。「手作り感」をだしたかった、と後のインタビューで桜井氏によって語られている。その名の通り、本作「HOME」は一曲一曲が丁寧に作られており、丁寧であるがどこか不格好で温かみを感じる楽曲が多い。“感性する前の一歩手前”と言ったらよいだろうか、“完成しきっていない良さ”が表現されているように感じる。Mr.Childrenのイメージは時代によって、様々な側面を見せ、またそれが彼らの強みでもあるのだが、本作「HOME」は“やさしいミスチル”が特に多く表現されていると感じる人たちも多いのではないだろうか。

 家系図がモチーフとなっているジャケットの印象も強い人たちが多いだろう。本作「HOME」も次作「SUPERMARKET FANTASY」もそうであるが、ジャケットがアルバムを象徴し、アルバムがジャケットに染められているというのも否めない。メッセージ性が色濃くでているアルバムでもなければ、Mr.Childrenが強く出ているアルバムでもない。歌が活かされた、歌のための、心地よい歌のアルバムといっても過言ではない。

 ちなみに本作の制作過程には「HI-KA-RI」というプレイヤーとしてのエゴがたっぷり詰まりすぎて収集がつかなくなりボツとなった楽曲があるらしい。聴いてみたい。

[HOME:Mr.Children]

HOME(通常盤)

HOME(通常盤)

  • アーティスト:Mr.Children
  • 発売日: 2007/03/14
  • メディア: CD

M-1:叫び 祈り

 「ポケット カスタネット」から派生した曲であると語られているが、「ポケットカスタネット」とは異なり、本曲には歌詞が存在せず、ボーカル桜井氏の叫びが収録されたインストである。一曲目から混沌とした楽曲で期待感を増幅させ、ジャケットの「HOME」感とは程遠い始まりである。感情を露わにしたかのようなエレキギターと無機質なドラム、あまりにも「HOME」というアルバムタイトルとは似つかわしくないダークな雰囲気。前作「I♥U」の余韻にも感じられるし、平穏な雰囲気を保つために無理やり蓋を閉められたこの世の哀しみのようにも感じ取れる。

M-2:wake me up!

 あまり話題にならず、ライブでも演奏されることがほぼないが、地味な名曲である。歌詞やメロディー、コード進行の展開など、随所に鏤められているテクニカルな一面。アコースティックギターの地味なギミックがとにかく聞きどころで、変な話、Mr.Childrenの真骨頂、というか。素直なMr.Childrenが描かれている。個人的には、ライブで是非やって欲しいし、まったく他の曲に劣らない良曲だと思っている。最後の「wake me up!」のコーラスには、ファイル保存するとき「〜風に」と言ったようなタイトルで保存し、それらをコーラスで組み合わせたとかしないとか。

M-3:彩り

 本作の象徴と言っても過言ではない。そして、ミスチル後半期の象徴と言ってもいい。桜井氏が2000年代でお気に入りのミスチルの曲に「HERO」と「彩り」を上げたくらいに製作者が自負するほどの象徴的な一曲である。このアルバムが発売される前の年のap bank fesで披露され、話題となっていた。その時点では一番ピアノ、二番バンドといった簡素なアレンジであり、その様子は初回限定盤のDVDに収録されている。

 この楽曲が素晴らしいのは、「生きているということがなにかに必ず繋がっている」というメッセ―ジであり、そしてそれを「笑顔」という結論に帰着させている点である。なんといっても、この楽曲を聞いていると、誰かの笑顔が、情景が浮かんできそうで、そういう“明るさ”を楽曲に凝縮できているのはMr.Childrenにしかできないんじゃないかと思っている。例えば「お金持ちのMr.Childrenに、こんなこと歌われても……」と思ってしまう人は、是非SENSE収録の「擬態」を聴いて欲しいな、とも思う。

 大それたメッセージを我々に送るわけじゃないが、聴く人の背中をそっと押してくれる楽曲である。

M-4:箒星

 疾走感、明るさ、突き抜け感、どれをとってもポジティブで前向きな楽曲である。前作I♥Uにあった迷いとか、葛藤とか、苦悩みたいなものが一切ない。突き抜けた明るさとポジティブ。それがとにかく良い意味で強い。なんのインタビューだったか忘れてしまったけれど、とにかく明るく突き抜けたものを作ろうと心掛けたものらしい。2パターンのデモが完成していて、その2パターンからもとにかく明るい方をシングルとして切り落とした。バンドサウンド、というよりは、バンドとしての確立されたアンサンブル、この辺りからMr.Childrenは音に対するこだわりがより一層強くなって、輝けるアンサンブルが増えたと思う。

 「最近ストレッチを/怠ってるからかなあ/うまく開けないんだ/心がぎこちなくて」や「でもね僕らは未来の担い手/人の形した光」など桜井節の比喩表現がふんだんに組み込まれたアップテンポキラーチューン。

M-5:Another Story

 アルバム発売された当初、アルバム曲の中では一番人気だったのでは?というような楽曲。前作I♥Uの「靴ひも」に出てくるバスつながりで生まれた曲。未だに最後のコーラス部分がなんと言っているか解明されていない。インタビューでもこの歌が生まれたきっかけはなんだか言葉を濁していたりして。そういう意味でちょっと気になる曲。ワウがかかったギターだったり、リズムが独特だったり、桜井氏のファルセットがあったり、温かで軽やかな男性のしょうもなさを歌った一曲。

 個人的にはラストのサビにある「夢とか理想とかおもちゃみたいにまだ思ってるかなぁ?」というフレーズが好き。そして、ラブソングって時たま友人関係や、兄弟、親子間にも変換できる曲があると思うのだけれど、この「Another Story」は恋人に対して綴る曲としては一級品じゃないかな、と思う。おもったよりも、変換できる関係が限定されている気がする。

M-6:PIANO MAN

 ジャジーな一曲。そしてスタッカートが特徴的。サビになるとビートが変わったりと面白い。遊びで作られたようで、歌詞は少々風刺をこめていて痛快。社会的な風刺が目立ちがちなMr.Childrenであるけれど、「終末のコンフィデンスソング」も含め、個人が勝手に抱く「甘え」や「ズルさ」にチクリとくるような痛いフレーズを書いてくれるのもまた魅力。

 箒星カップリングもまたジャジーな「my sweet heart」というものだったのだけれど、桜井氏かメンバーの誰かがハマっていたのだろうか?Mr.Childrenの幅広さがこういうところにも表れていると思うし、どんな曲になっても、聴きやすい。是非また作って欲しいジャンルのひとつ。

M-7:もっと

 曲そのものは「It's a Wonderful World」の頃から存在していたらしく、サビにあるメッセージが素晴らしい。もっと広い心なんて、辛い状況下にいる時は持てない、持てないのは知っているんだけれど、それでも笑えるように暮らしていけたらいいな、と思わせる楽曲。そして、とにかくもっと世に広まって欲しいな、と思う素晴らしい曲。
個人的なMr.Childrenの好きな曲ベスト10には入るかも。

M-8:やわらかい風

 どことなく不穏で「空っ風の帰り道」のダークバージョンと言った気がする。それと言って、取り上げる部分もないのだけれど、曇り空の下を散歩しているイメージだ。
ゆったりと流れていくメロディーと別れた相手を気遣う一曲。そのまさに柔らかな流れの中で、最後に不穏な空気を残す。ある意味で実験的な楽曲の様にも思える。アルバムの中での小休止的楽曲のようであり、かといって平穏でもない、これからのなにかを予感させる一曲。

M-9:フェイク

 the pillowsとの対バンツアーで披露された楽曲。新たなミスチルデジロックの誕生。今もライブの定番となっているナンバー。イントロのギターは桜井氏がミキサーのスイッチを適当にオンオフしていたら出来たとかできないとか。サビ前のギターとドラムによるブレイクが非常に格好いい。そして「愛してるって女が言ってきたって/誰かと取っ替えの効く代用品でしかないんだ」というフレーズは強烈である。メロディーと語感だけに身を任せ、作られた曲ではあると思うのだけれど、このフェイクという楽曲に込められたメッセージはポジティブな意味なのか、ネガティブな意味なのか。そしてリスナーがこのメッセージをどう受け取って生き抜いていくのか、なかなか普遍的なテーマだと思う。虚構に満ちた世界の中で、まるでPVの中のメンバーのようにマスクをした人間が狂ったように踊り狂う、その中で幸せを掴めるのは一握り、そんな空気さえも感じる。

M-10:ポケット カスタネット

 PIANO MANとは逆で、最後のサビでテンポが倍になる曲。このアルバムを聴いた当時はその実験性に驚いたけれど、後に誕生する「風と星とメビウスの輪」を聴くと、この曲はやはりまだ未完成だったのだな、と感じる。「風と星とメビウスの輪」と比較すると、展開によくもわるくも隙があり、メロディーが非常に立っている楽曲である。「歌」をテーマにしたアルバムであるから、ある意味では間違っていないのかもしれないけど。もっと後半にかけて、音数が増えて、厚みのある雰囲気を醸して欲しかったな、と思う。

M-11:SUNRISE

 ギターの田原氏お気に入り、渾身の一曲。イントロを何度も弾き直したらしい。そのせいあってか、イントロを聴くと目の前にオレンジが一色広がるイメージを持つ。
前に進もうとするが、地団駄を踏んでいけない、感傷的にさせられる内容。力強いドラミングやベース、ギターで聴いている人間の背中を押してくれる、どことなく「終わりなき旅」をどこかで連想させる一曲。アンサンブル的には、split the differenceで披露された「SUNRISE」はとても好き。特にドラムが心に響きます。

M-12:しるし

 桜井氏曰く「別れの歌」とも「出会いの歌」ともとれる一曲。当時桜井氏は「ありきたりなメロディーや言葉が出てくるのは、かぶったとか、パクリ、ではなくて単純に誰もが思っているから。誰もの心にあることだからそうなるのだと思う」と語っていた。でも、サビの壮大な展開の仕方や歌詞のシンプルさ、情熱的な歌い方は間違っていなかった。しっかりと若者に認知され、今ではMr.Childrenの代表曲のひとつだろう。ちなみに一説によると桜井氏のペットが亡くなって書かれた曲で、決して手を抜いて作られたわけではない。まさにホームメイドな、手作りで丹念に作られた楽曲であると感じた。

M-13:通り雨

 見方を変えれば世界は広がる系の曲。歌い方なども軽やかで、でもメッセージはちょっと重い。でも聴いていると明るくなる、次作「エソラ」のエッセンスがそこそこ入っている、というとわかりやすいかも。いずれ僕らは死んでいくけれど、それもまた次の世代へ引き継ぐためのもの、その事実を受け入れながら、また僕らは生き続ける。
「もっと」もそうだけれど、いま降っている、いま受けている悲しみが、一時のものであると、いずれ通り過ぎるものであると、そういう長い目で物事を考えられるようになると、ちょっとだけ楽になるのかもしれない。

M-14:あんまり覚えてないや

 桜井氏が歌詞を書きながら泣いてしまったという楽曲。これはきっと先入観なく、聞くのがいちばんグッとくるのだろう。なかなかミスチルにこういう曲はないし、この先も生まれてない?と思う。当たり前のことを歌っているのだけれど、歌詞の描き方、ストーリーがからかうように言えば槇原敬之チックで、「そうだよなあ」ってほろりとしてしまう。それでも、Mr.Childrenとしてのポップがしっかりと確立されていて、とても好き。案外、いろんな世代に受け入れてもらえる楽曲だったりするかも?