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死に近づく生を謳歌するファンタジー / Album:SUPERMARKET FANTASY(Mr.Children)全曲レビュー

本作SUPERMARKET FANTASYは前作HOMEからの約1年と9か月ぶりのアルバム。
前作HOMEが「家」というタイトルでとても地味でアットホームな仕上がりとなっていたが、今作は家から飛び出し外へ、「スーパーマーケット」と名のつくとおりカラフルな仕上がりとなっている。

特に桜井氏は雑誌等で強い意気込みを語っており、アルバムが発表さる前のMUSICAのインタビューなんかでは「いま、若いミュージシャンたちの葛藤とか悩みとか、歌にされても聞きたくもない」といったような攻撃的な内容も語っており、僕個人としてはとにかく期待したアルバムだった(毎回そうだけど)。

そして「消費される音楽」ということもキーワードにしていた模様。
ただ、そのあたりはいつもMr.Childrenが軸にしていたこと、語っていたことかなあ、と。

このアルバム、発表当初は「 アナザー・ディレクターズCUT版」みたいな、花の匂いの桜井和寿ソロが収められると書いてあったのにいつの間にかなくなっていてショックだった記憶がある。
しるし、花の匂い、とボツになったPVがそれぞれあるが、是非見てみたい。

[SUPERMARKET FANTASY:Mr.Children]

SUPERMARKET FANTASY [初回限定盤:CD+DVD]

SUPERMARKET FANTASY [初回限定盤:CD+DVD]

  • アーティスト:Mr.Children
  • 発売日: 2008/12/10
  • メディア: CD

M-1:終末のコンフィデンスソング

まあ、毎回言われることなんだけどタイトルから当時インターネットでは「ミスチル解散!?」とちょっと騒がれた。というのもツアータイトルまでもが「終末のコンフィデンスソングス」とあったからだ。
いままでのMr.Childrenにあったようでなかった曲。
攻めの歌詞とメロディー、しかしシンプルなようでいやらしいギターリフ。言うなれば「言わせてみてぇもんだ」をよりポップに昇華した楽曲。

間奏部分の浮遊感はMr.Childrenの中でも特異な方で、下手したら「Q」期のような雰囲気も漂っている気がする。
決してシンプルなんかじゃなく、こんなとっつきにくいオープニングでファンタジーは始まるのか?と思う一曲。考えようによっては、パレードに飲み込まれていく様な。

M-2:HANABI

名曲。この曲の凄いと感じる点は地位も名誉も富も手にした桜井和寿という人間が「どれくらいの値打ちがあるだろう?/僕が今生きているこの世界に/すべてが無意味だって思える(HANABI/Mr.Children)」なんてリリックを書けてしまう所だ。
儚さと無力さ、しかしこの時期(2006~2008)ならではのMr.Childrenの煌びやかさが鏤められており、そのあたりが深海やボレロといったようなときに歌っていた無力さとは違う無力さ、なのかなと。

「深海」の頃に歌っていた無力さは、世界に対する嫌悪感や、苛立ち、怒りから来るものであったのに対し、この「HANABI」から感じる主人公の無力感は、なにをやっても空を切る、感情の拠り所のない、突然東京の喧騒の中に立たされた田舎者の気持ち、とか。
楽曲そのもののアレンジ面などでは、若手バンドに触発されて書いたものとインタビューで語っており、フジファブリックの「若者のすべて」なんかはきっとそれに近いんだろうな、と思っている。
この頃桜井氏がよく言っていたのが「若者の苦悩とか葛藤とか、お金まで出して聴きたくない」ということ。
つまりは、この楽曲は苦悩や寂しさを歌っているようで、とても前向きに生きて行こうと、切なくももがく歌。

M-3:エソラ

本作のリードトラック。
メロディーはずっとあったが歌詞が決まらず仮タイトルが「貨物船」であった。
森本千絵さんのジャケット案によってタイトルが決まり、歌詞が決まった、という時間軸にならえば、ジャケットのスーパーの袋に「船」が描かれているのも「貨物船」という仮タイトルがあったからかも、と。

楽曲自体は「人は生まれて死へと向かうことを知りながらも生きることに希望を見出しながら踊り続ける」といった内容をミクロかつポップに仕上げている。前作HOMEの集大成、進化、そして今作の序章、とでも言ったところ。ギターやベース、ドラムの軽快なサウンドも心が軽くなる。
サビに入る前の間奏がとても聴きどころで、この部分にメロディーが入っていない、言葉のないボーカル、新鮮味のある楽器として加わってきている点がとても好き。
マイナー調の中に含まれた刹那を知りながらも、ただただ踊り続ける。
この「SUPERMARKET FANTASY」は決して後ろ向きじゃないんだけど、でも、ただ消費されるためだけにそこにある、そういう切なさが常に漂っている。

M-4:声

シンプルな楽曲。サビはメロディーのみで歌詞がない。
そして間奏のギターソロが渋い。
シンプルな楽曲ってよくもわるくも受け取り方がたくさんあって。だからこそ、響いちゃう所もある。
僕からするとMr.Childrenらしくはないけれど、でもMr.Childrenに歌って欲しかったことでもある。
間奏の最後で町の雑音が取り込まれているのが粋。

M-5:少年

NHKドラマ「バッテリー」の主題歌。
主題歌となっていたころからとにかく話題になっていて、僕もドラマ中にイヤホンをして聴いていた。
名曲の予感しかしなくて、1年待たされた挙句、正直少し飽きていた。夏の曲なのに、やっと聴けたのが冬だし。
個人的にはシングルにして、夏に発売して、僕が高校生ぐらいだったら青春に焼付く最高の楽曲になっていた気がする。
年齢が若く、なにかに夢中になっている、それこそ野球やっている人なんかにはぐっときそうだ。

M-6:旅立ちの唄

名もなき詩、優しい歌の「うたシリーズ」に入る、と言っていいでしょう。
意図的なのか、どうなのか、名もなき詩、優しい歌、旅立ちの唄、それぞれ色が全く違う。
この曲の最大の長所は「背中を押してるから/でも返事はいらないから」のフレーズでしょう。
相手を応援するときに、相手からの返事はいらない。
それが最大のエールであるように感じた。
地味だけど、とても大事なことを歌っている。個人的にスルメソング。

M-7:口がすべって

歌っているテーマがとにかく壮大になったりローカルになったりする。
遊び心も詰まっているし、なにより聞きやすいし。
とはいえ歌っていることも侮れないし。
今作は、歌っている内容は重いけどポップな曲が多い。
Cメロのメロディーが印象的。

M-8:水上バス

イントロのアコースティックギターが綺麗。このイントロだけで世界観が出来上がっている、といっても過言ではない。
水の雰囲気とか、雰囲気つくりも上手くて、情景がよく見える楽曲。

もともとは、クリスマスバージョンと、このバージョンがあり、女性スタッフにアンケートをとったところクリスマスバージョンがやや人気だったが、なんやかんやでこちらに決まった、と。
たしかにアコースティックが基調となって紡がれる雰囲気は、クリスマスにも合う気がする。
が、心の迷いを表すような溺れるような間奏は、綺麗一遍でない恋愛の流れを歌っている。

M-9:東京

東京という街で生きていく人たちの楽曲。生まれた場所や育った場所が変わっていく中で、今自身が大事にすべきものとはなんだろう?という問い。
「誰もが夢を叶えているわけじゃない、たった一握り」という酷な現実を歌いながらもなぜか背中を押される一曲。

POPSAURUS 2012では、東京ドームで、ギターの弾き語りが披露された。
日々、新しく生まれ変わっていく東京の中で、古いものとして取り残されない様に、誰もが必死でもがいている。
それを綺麗なメロディーラインと、鮮やかな風景描写に乗せて、やがて褪せていく、壊れていく刹那を綴っている。

M-10:ロックンロール

ギターソロとドラムがとにかくかっこいい。
アレンジもシンプルで三拍子の前へ、前へと強く押し出る楽曲。
ピアノ含め、どの楽器もいい味を出している。

M-11:羊、吠える

旅立ちの唄のカップリング。
僕はこの曲の最後のサビのベースがとにかく好きでよく弾く。
楽曲は、とても内省的。
自分の生き方に誇らしさなんてなくて、むしろ憎らしい程なんだけど、その醜さに従順でいられたら、君の醜さに従順でいられたら、けれど素直にはなりたくないし、なれない。
現状満足のフリして次へ向かいたい、本当は吠えてるだけじゃいたくない、そんな風に感じられる。

M-12:風と星とメビウスの環

プログレなイメージ。小林武史氏の力あってこそだとは思うのだけれど壮大なアレンジに仕上がっている。
人間としての強さと弱さと、SUPERMARKET FANTASYよりかはI ♥ Uに収められている印象。worlds endとかand I love youの世界観に近い。

「HOME」での「ポケット カスタネット」での実験を経ての楽曲だと思われるが、とにかくアレンジがすごい。
間奏で時間が止まったかのように思える一瞬。衝動のように、予感のように、展開が目まぐるしく繰り広げられる。
シングル版「GIFT」には、シングルバージョンとしてピアノとボーカルのみの弾き語りとなっている。
桜井氏は、シングルバージョンがあったからこそ、アルバムで自由にやれた、とどこかで語っていたような。

M-13:GIFT

NHKオリンピック公式テーマソング。白か黒かで決める勝負があるとしても、その間で様々な色が広がっている。というメッセージソング。
なんというか、全てを肯定する楽曲、かな。

ほんと、その「全てを肯定する楽曲」の一言に尽きるのだけれど、あえて述べるのだとすれば、例えば桜井氏は「2000年代の終わりなき旅」とどこかで言っていた気がしなくもない。
もう歩き疲れてしまった主人公が、それでも尚、一人で孤独に歩き続けた「終わりなき旅」
それと比較すると、この「GIFT」は、共に歩く誰か、誰かを思う為の旅、そういう“だれか”をつれた楽曲となっている。

バンドとしてのアンサンブルはライブで聴くととても素晴らしい。
それぞれが自由に動きながらも、常に調和を乱さずに、輝きを零しながら演奏が繰り広げられる。

M-14:花の匂い

この楽曲はPVがとにかく素晴らしいと感じた。
大切なものを、大切なひとを失っても、まだその温かみや息遣い、感覚が残っているという楽曲。
「信じたい/信じたい」と言葉を繰り返す部分が印象的。