今日もご無事で。

今日も無事なら明日も無事でいて。そんなくだらない話。

猫を抱いて象と泳ぐ/小川洋子

小川洋子の真骨頂と呼ぶべきかどうか。
小説家としての技量を見せつけられたような、挑戦的な一冊のように僕は思えた。
博士の愛した数式」で見せたような日常の暖かな優しさとはかけ離れた、かといってこれこそ小川洋子、とでも言わせる様な切なさと美しさ。

主人公が自ら背負った宿命。
けれど、主人公自身がソレについて哀しみを独白することは一切ない。
もっと言えば、登場人物が自身の哀しみについて語るシーンはほとんどなかったように思う。

綴られる言葉のひとつひとつは淡々とし、いつもの著者の小説のように知らぬ間に読み手の周りに世界をつくりあげる。

小説の登場人物は自身の生涯を受け入れて生きていく。
偶に住む場所を変えながら、それでも受け入れながら変わっていく。
だから、なにも言えない。

誰にも知られないまま生涯が閉じてしまうってどうなんだろう。
もっと何かないだろうか?と思うけれど。
この小説の言葉を借りるなら、その生涯があまりに美しい棋譜であるが故、どんなに切なくても口出しが出来ない気持ちになった。