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ニューニュートラルな時代の幕開け - turn over?/Mr.Children[感想]

 

 「東京の新型コロナウイルス感染者数が2日連続で100人を下回る」

 そんな毒にも薬にもならないニュースの見出しが速報としてテレビのテロップで流れる。昨日と違う今日を追い求めてマスコミは日本中の観光地を駆け回り密集した観光地の様子を伝える。その状況を「気が緩み始めている」「麻痺し始めている」と捉える人もいれば、「経済が死んでしまう」「我慢して我慢して今なのだ」と口にする人もいる。この日本の状況を楽観的とするか、悲観的とするか、それとも堅実であるのか。一方、世界の新型コロナウイルスの感染者数は日に日に増加していき、1週間あたりの新規感染者数はパンデミックが始まって依頼最多であるとWHOが発表した。物事は、どこの視点から見るかで全く違うものになってしまう、その感覚をヒリヒリとこの事象を通じて感じる日々だ。

turn over?/Mr.Children

 そんな中でもハッピーなニュースはたくさんある。私にとってはMr.Childrenの新曲『turn over?』が発表され、配信リリースが開始されたこともまたそのひとつである。『turn over?』はTBS系火曜ドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』の主題歌として起用され、初回放送日の9月16日に初めて音源が公開、その翌日17日0:00から配信がスタートした。

 

 リアルタイムでドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』を観ていて、ドラマのストーリーにも惹かれながら、そのエンディング間近で『turn over?』はボーカル桜井氏の歌メロはじまりで解禁された。“明け方の東京は/しらけた表情で/ボクのことを/見下ろしてる (turn over?/Mr.Children)”のフレーズをはっきりと聞き取った瞬間、久々に気持ちが高揚した。こんなにワクワクして、頬が緩んで、ニヤけてしまう、そんな喜びを与えてくれるのはMr.Childrenだけだな、ぐらいに大袈裟に感じてしまった。彼らの新曲が封切られる瞬間は、いつだって期待に満ちている。

 

 『turn over?』はハッピーなミドルテンポのポップチューンだ。しかし、歌い出しのフレーズからも感じる通り主人公の恋愛に対する葛藤や苦悩が日常と照らし合わせながら描かれている。それはドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』にも通じているようで、一見ハッピーなコメディ・ドラマのようにも感じるが、ヒロインの松岡茉優が“ほころび”をキーワードに随所で人と人とのコミュニケーションのすれ違い、ひっかかり、価値観の異なりを引っ張り出している。

 『turn over?』も“人生で最大の出会い”“人生で最愛の人”に向けて歌ったラブソングであるが、それは決して大袈裟なものではなく、日常から切り取ったワンシーンのような普遍的な愛の歌なのである。 

turn over?

turn over?

  • 発売日: 2020/09/16
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

 アレンジも決して壮大な仕上がりではなく、歌始まりという大胆なスタートを切りながらも軽快な8ビートのドラムに乗せたシンプルなアレンジになっている。特にアルバム『重力と呼吸』でよく感じられたような所謂強く押し出された“バンドサウンド”ではなく、楽器隊でいえばアコースティックギターとタンゴが主軸となってアレンジされているような感じがして、そのせいかバンドサウンドでありながらも主張しすぎないアレンジになっているような印象を受ける。

 このロックではなくポップなMr.Children像はいままでであるようでなかったMr.Children像だと感じていて、『Birthday』『turn over?』ともに最低限のアレンジで、けれど“余白を大事にしている”軽快ながらも輪郭がはっきりと見えてくる音像はニューニュートラルなMr.Childrenの時代の幕開けを感じさせる。

 

 今回のマスタリングは、Sterling SoundのRandy Merrillが担当しており、その影響もあってか、『Birthday』とは全く音の見え方も違って面白い。『Birthday』では広がりのある空間が非常に意識された音像のように感じられた一方で、『turn over?』はより近くに音像を感じられながらも隙間が意識されている。ちなみに『Birthday』のマスタリングはMASTERDISKのScott Hull。2000年代ベスト盤あたりから、Mr.Childrenはマスタリングも外部とタッグを組みながら試行錯誤している様子があるが、この最新の2曲は特にその違いが感じ取れて面白い音源になっていると思う。

 

 歌詞の面でも、『重力と呼吸』を経てからのMr.Childrenは“肯定すること”“認めてあげること”“尊重すること”が根底に潜んでいるように感じる。だから、聴いていてとても前向きに慣れるし、明るくもなれる。暗い部分があるから、明るい部分もある、それはMr.Childrenがずっと歌ってきたことであるけれど、“光”や“陽”といった輝きの側面ではなく、かといって“陰”を映し出すのでもなく、あるがままの形を書き留めることで今を肯定する、そういった姿勢が『Birthday』や『turn over?』からは感じられる。無理矢理な力強さではなく、聴いている側のイメージでより日常に少し彩りを添えるような、そんなささやかなフレーズがいくつも散りばめられている。

 

 リリース済みの『Birthday』『君と重ねたモノローグ』『turn over?』に加えて、既に発表されている『The song of praise』『others』『こころ』『お伽話』『ヒカリノアトリエ』がもしアルバムに収録されるのであれば、そのアルバムはMr.Childrenの新しい基準になりそうな予感がしていて、とてもワクワクしている。『シフクノオト』は、前後のMr.Childrenの時代と比べてひとつのポップの起点になったアルバムだと思っているのだけれど、もしかしたら今度のアルバムもそういった立ち位置のいい意味で“まとまりのない”、そして50歳代の“私服の音(あるがままの音)”を感じられるアルバムになりそうな予感がしています。2020年内に発売されるといいな、なんて思いながら、楽しみに待っています。

明け方の東京は/しらけた表情で/眠れないボクのことを/見下ろしてる (turn over?/Mr.Children)

 ところで、ジャケットアートワークは『tomorrow never knows』をイメージさせる、なんだか飾っておきたいようなアートワークですね。